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ナイトパーティー  作者: 内山スク
4章 声無しの魔女編
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無言の約束

 シオンはエメリアを追いかけて裏路地まで来ていた。

 ラガマが糸のレプリカで固定したドアが急に開いたため建物から出てこれたが、それはエメリアがラガマを倒したか、レプリカを破壊したかのどちらかを意味していた。

 シオンはエメリアの身に何か起きていないか心配しているのか裏路地の周囲を見渡し、エメリアがいないか確認していた。

 そして角を曲がるとエメリアが座り込んでいる姿を発見した。横にはラガマが脱力したように倒れていた。

 見た目に外傷などはなくシオンはほっと胸を撫で下ろした。

 そしてゆっくりとシオンはエメリアに歩み寄ると、エメリアの肩をポンと叩いた。エメリアはゆっくりとシオンの方を振り向いたが、その顔は悔しそうに涙を流していた。

 そしてシオンはエメリアのある違和感に気がついた。それはシオン自身も同じ経験をしたからわかることだった。

 エメリアの声が奪われている。

 エメリアはシオンに泣きながら何かを訴えようとしているがエメリアの言葉は声にならずに、ただ音のない静寂を作り出すだけだった。

 シオンは朗らかな笑顔を作るとエメリアの頭を撫でて落ち着かせる。そして羽ペンと紙を取り出し文字を書き始めた。

『声無しの魔女に会った?』

 紙に書かれた文字を確認するとエメリアは首を縦に振った。それを確認するとシオンはエメリアに手を突き出した。

 恐らくここで待っていてという意味なのだろう。シオンはエメリアに背を向け走り出そうとするとエメリアがシオンの手を掴んだ。

 シオンがエメリアを見ると首を横に振っていた。

 エメリアの言いたいことがシオンには大体理解できているつもりでいた。声を奪われたから彼女もジェスチャーや筆談で会話を行っていたため、手振り身振りで相手が言いたいことは大方理解できた。

 声無しの魔女の場所はわからない。それに一人で勝てる保証もない。エメリアはシオンを止めたいのだろう。

 しかしシオンはそれでも声無しの魔女を倒したかった。自分自身の声とエメリアの声を取り戻したかった。そして自分の声で伝えたい言葉があるからだ。

 シオンはエメリアの手を優しく掴み離させると再び羽ペンで文字を紙に書き始めた。

『心配しなくても大丈夫。あなたの声も取り戻して見せるから』

 しかしエメリアは紙を確認して再び首を横に振ると右の方向を指差してた。指の方向を見ると細い路地が奥まで続いていた。

 まるで声無しの魔女がこっちにいると伝えているようだった。

 シオンは羽ペンで再び文字を書いてエメリアに見せる。

『場所がわかるの』

 エメリアは書かれた言葉を見て首を大きく縦に振った。

 シオンもそれを見て頷くとエメリアが指差した方向に歩き出そうとすると再びエメリアに手を掴まれた。

 エメリアの顔を見てみるとさっきまでの泣き顔が嘘のように何かを決意したような顔をしていた。

 シオンには今度こそ理解できた。彼女は私も行くと言いたいのだろう。自分の声は自分で取り戻すと声に出さなくてもわかるほどに目で訴えていた。

 シオンは羽ペンで紙に文字を書いてエメリアに見せた。

『ついてきてもいいけど二つ条件がある』

 エメリアは文字を確認して頷くとシオンは再び文字を書き始める。

『一つは風魔法で自分の周りを覆って守りに徹すること』

 エメリアが首を縦に振ったことを確認するとシオンは文字を書いてエメリアに見せた。

 書かれた内容を見てエメリアは驚いたように目を見開いたが、ゆっくりと覚悟を決めたように首を縦に振った。

 シオンは首を縦に振り、エメリアが理解したことを確認すると再びエメリアが指した方向に歩み始めた。

 声を奪われた二人の静寂なる反撃が始まった。

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