天高く風は吹く
エメリアは吹き飛ばしたラガマを追って裏路地から出た。しかしラガマの姿は目の前にはない。目の前に広がるのは市場を見て歩く人のたちの姿が広がるだけだった。
まるで何も起こっていないかのように市場の人たちはエメリアのいる裏路地を見ずに歩き去ってゆく。
「いったいどこにいったの?」
ラガマを探すエメリアはふと首筋に違和感を感じた。そして思考を巡らすよりも早くエメリアは身体を動かし、後ろに倒れるようにバク転した。
先ほどまでエメリアがいた場所を見ると蜘蛛の糸のように細い糸がエメリアの首が先ほどまであった場所に垂れていた。まるでエメリアの首を引っ掛けるようにして。
「おや、静かに首を絞めて殺してあげよう思ったのですが残念です」
上から声がしたため、建物の屋根を見上げるとラガマが糸を指先から釣り糸のように垂らしながら、口が頬まで裂けるような狂気的な笑みを浮かべていた。
「その糸はレプリカなの?」
「えぇ、そうです。糸のレプリカ。先ほど吹き飛ばされた際に糸をかけて勢いを殺させていただきました」
エメリアは風でできた刃を自身の立っている地面に向けて噴出した。するとエメリアの体は浮かび上がり、建物の屋根にふわりと着地する。
「知ってる?風は糸を飛ばすのよ」
「知ってますよ。だけど糸はなにも伸ばしたり、引っ掛かるだけではないんですよ」
ラガマはそう言うと指から出た糸を手繰り寄せるように右手を手前に引いた。
するとエメリアの足が突如として締め付けられた。エメリアの足元に糸が仕掛けられており、糸がエメリアの足を締め上げたのだ。
「きゃ!?」
突然の出来事に対応できずエメリアは転倒した。その隙を見逃さず、ラガマはエメリア目掛けて迫ってきた。
エメリアは向かってくるラガマ目掛けて手のひらを向けると風魔法で突風を発生させた。ラガマの身体は風によって浮かび上がり吹き飛ばされそうになるが、ラガマは笑みを崩さない。
「くっ!!悪あがきを。しかし無駄ですよ」
ラガマは糸のレプリカを建物の煙突に巻きつけるようにすると、まるで蜘蛛が糸を出して巣に戻るように吹き飛ばされ勢いを利用して屋根に着地した。
「わかりましたか?あなたの風魔法は僕には効きません。まぁ糸の距離は無限に出せますが、二本までしか出せませんがね・・・・・・二本で十分ですが」
「・・・・・・なるほどね。じゃあ糸を巻きつける暇がないぐらい勢いよく吹き飛ばして上げるわ」
エメリアは風でできた刃を思いっきり振りかぶるとラガマに打ち付けるように風魔法をぶつけた。
ラガマは右手を伸ばし糸を煙突に巻きつけ、そのまま突風を受ける。身体が浮かび上がるような突風を受けながらもラガマは余裕の表情を見せていた。
「なんどやっても無駄ですよ。あなたの魔力が尽きるだけです」
ラガマは突風により目が開かなかったが余裕な口ぶりを見せた。しかし薄目を開けるとあることに気がついた。
目の前にいたエメリアがいない。そしてそのことに気づいた時にはもう遅かった。
エメリアは突風によって浮かび上がったラガマの身体の真下に潜り込んでいた。
「糸は無限に伸びるのよね?なら勢いが殺さないように上空に飛ばして上げるわ」
エメリアは再び風の刃をラガマに目掛けて大きく振るった。ラガマの身体は上空に吹き飛ばされた。
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ラガマは断末魔と共に上空に打ち上げられた。そしてラガマの身体に引っ張れ糸のレプリカを巻きつけた煙突が折れた。
そのままラガマは上空へ放り出された。
空に打ち上がったラガマはエメリアの下には落ちてはこず遠くの町中に落下していった。
落ちる途中何か白い物がラガマの目掛けて引き寄せらせるように飛んできたのが見えたが結局それ以外変化はなく真っ逆さまにラガマは落ちていった。
「ふぅ・・・終わった」
エメリアは屋根の上で座り込んだ。すると屋根を誰かが歩く足音が聞こえてきた。振り返るとシオンが走ってきていた。
「あ、シオンさん。こっちは終わりました・・・・・・あれ?シオンさん弓はどうしたんですか?」
シオンが別れる直前まで待っていた白い弓を持っていないことにエメリア気がつき指摘するとシオンは紙に文字を書き始めた。
『盗られた』
「え!?」
『エメリアが戦っていた奴が弓に糸を巻きつけていた。突然引っ張られて持っていかれた』
「さっきあの囚人が落ちる前に見えた白い物はシオンさんの弓だったんだ・・・・・・取り返しに行きましょう!!」
エメリアの言葉を聴くとシオンは慌てる様子はなく再び紙に文字を描き始めた。
『心配ない』
「心配ないってオリジンシリーズ盗られちゃったんですよ!!」
シオンは再び文字を書くとエメリアに見せつけた。そこにはこう書いてあった。
『私の弓ならここにある』