言葉にできないこの想い
アルカナルの町の市場。商人や客たちで賑わう人混みの中、エメリアとシオンは歩きながら周りの人の顔を見ていた。
手にはカラトナ要塞から脱獄した囚人の似顔絵がかかれた手配書を持ち、すれ違う人の顔を囚人の似顔絵と照らし合わせていた。
「見つかりませんね。シオンさん」
エメリアの問いかけにシオンは首を縦に振りながらコクコクと頷いた。
町中で人を探すのはなかなかに骨が折れる。相手だって馬鹿ではない。町の中に潜伏するなら目立たないところ例えば裏路地や空き家ではなく、人混みが多い市場や町中にいるとエメリアは考えたのだが予想がはずれたのか見つからない。
「・・・・・・ところでシオンさんはなんで王国を裏切ったんですか?」
突然のエメリアの質問にシオンは驚いたように目を見開いた。
「いや、師匠みたいに国民の為に戦おうとか決めたのかなぁと思って・・・」
エメリアの発言を聞くとシオンは羽ペンを取り出し紙に文字を書き始めた。
『カレッジがそう決めたから』
「え、師匠が?」
首を傾げるエメリアを見るとシオンは再び羽ペンを動かし文字を書き始める。
『私は元々シール王国の奴隷だった』
「え!?」
『遠征に出た時声無しの魔女に私の先代の騎士団長が殺されて、私がオリジンシリーズを拾った』
「周りの人達は何も言わなかったですか?」
『もちろん皆私からオリジンシリーズを奪おうとした。だけどそれをカレッジとパワスさんが守ってくれた』
シオンは文字が紙を埋め尽くしたことに気づくと新しい紙を取り出し再び羽ペンで文字を書き始める。まるで自分の中に溜まった思いを文字で吐き出すよう。
『そして私は騎士団長になった。私はこの声を取り戻してカレッジに伝えたい言葉がある』
シオンは紙をエメリアに見せるがその静かな目は彼女の思いの重さが伝わるぐらい真剣な眼差しをしていた。
「そうだったんですか・・・・・・早く声が取り返せるといいですね」
エメリアの言葉にシオンは力強く頷いた。
「だけど、シオンさんは師匠が大好きなんですね」
エメリアの言葉を聞くとシオンは顔を赤くして否定するように手をブンブン振り始めた。まるで照れ隠しするように違うと否定しているようだが、本心は赤面した顔を見れば丸わかりだ。
「ふふっ。そんなに照れなくても大丈夫ですよ。私も応援しますから」
エメリアの言葉にシオンは顔を赤くしながらもコクンと頷いたのだった。
「しかし、囚人見つかりませんねぇ」
エメリアが言葉終えた瞬間だった。ヒュっと何かが風を切る音がした。そしてエメリアの目の前に何かが飛んできた。その飛んできた何かがエメリアに当たるギリギリでシオンは飛んできた物を手で掴んだ。
飛んできた物をは矢だった。エメリアの顔面の目の前でシオンは矢を掴んだ。
自身に矢が後数センチで当たっていたという事実を理解するとエメリアの顔を青ざめた。
「なんですか?これ」
シオンは動揺するエメリアの手を引っ張り、裏路地に逃げ込んだ。
「ひょっとして囚人ですかね?」
シオンはコクリと頷くと背中の白い弓を取り出し、矢を装填する。
それを見てエメリアも腰に下げた剣の柄を抜くと風の刃を形成した。
「人混みじゃ風魔法で探知できないし・・・・・・どうしよう」
エメリアが考えているその時シオンが弓を構え、エメリアの背後に向けて矢を発射した。
風を切る矢の音がエメリアの耳を横切ると矢はエメリアの後ろに迫っていた男の肩に突き刺さった。
「ぐっ・・・・・・さすがはシールの騎士ですね。静かに首を絞めて仕留めるつもりでしたがバレるとは。私もまだまだですね」
そこには手配書の似顔絵にそっくりな不気味な笑みを浮かべた長髪の男が立っていた。カラトナ要塞から脱獄した囚人の一人ラガマだ。
「ヤァァァァァ!!」
「何!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
エメリアは風でできた刃を大きく振るうと突風ラガマを襲い裏路地の外まで吹き飛ばされた。
「シオンさんこの男は私が倒します。狙撃手の方をお願いします。」
シオンは静かに頷くと裏路地を飛び出した。エメリアもラガマが吹き飛ばされた方向へ走り出した。まるでお互い背中を預けるようにして。
エメリアとシオンのそれぞれの戦闘が幕を開けたのだった。