氷のように透けて見える心
パージとの戦いから三日後、アイスノックはラゴントの塔の入り口に来ていた。
岩山しかない周りには人の気配はない。そんなラゴントの塔入り口付近に人為的に岩を積み上げた墓のような物があった。墓の前には花と黒いフルフェイスマスク、そしてこの墓に眠る騎士が持っていた剣と唐草模様のついた短剣が置かれていた。
アイスノックは墓の前に座り静かに墓を見つめていた。岩山に吹く冷たい風がアイスノック肌を突き刺すがそれを感じていないのか魂が抜けたように座っている。
「ここにいたのかアイスノック」
ふと後ろから声をかけられアイスノックは後ろを振り向いた。そこには少し痩せかけたカレッジ立っていた。
「傷はいいのか?」
「あぁおかげさまで歩けるようになるまで回復したからな」
「レゲンは?」
「ケルスと一緒にいるよ。また見つからないと帰れないしな」
「・・・・・・そうか」
アイスノックは覇気がないよな返事を返すと再び墓に目線を向けた。どこか憂鬱そうな顔をして墓を見つめていた。
「なぁ聞いてもいいか?アイスノック」
「・・・・・・なんだ?」
「なんで王国を裏切る時パージさんを後ろから斬ったんだ」
カレッジの言葉にアイスノックは振り向かず墓を見つめ続けた。答えが返ってこないためカレッジは再び言葉を紡いだ。
「お前のことだから正面から戦いを挑んだと思っていたが・・・・・・なぜだ?」
「師匠と正面から戦うのが怖かったのさ」
アイスノックは沈黙を破るように振り絞って言葉を出した。
「王国を裏切ると決めた時師匠と戦う勇気が、俺にはなかった。それだけさ」
「・・・・・・そうか。聞いて悪かった」
二人はしばらく岩山に吹く強い風に当たっていた。墓に置いてあるフルフェイスマスクが震えるように風に当てられ揺れていた。
「違う・・・嘘をついた。本当は師匠と正面から向き合うのが怖かったのさ」
アイスノックは墓を見つめながらもその頬には一滴の滴がこぼれ落ちていた。
「師匠を裏切るのが怖かった・・・・・・俺の覚悟が足りなかったせいで師匠を苦しめちまった。それを今更になって後悔している。あの時・・・俺が師匠と正面から戦っていたらこんなことにはならなかったかもな・・・・・・」
自身の中に溜まっていた何かを吐き出すように言葉を絞り出すアイスノックにカレッジは一呼吸置くと口を開いた。
「・・・・・・その時の選択が正しいなんて誰もわからないさ。ただ俺たちは過去の苦しみや苦しんだ者たちの分まで生きなきゃいけない。それが俺たちの役目じゃないか?」
「・・・・・・なぁカレッジ。王国を裏切らずにいたら師匠を苦しめずに済んだと思うか?」
アイスノックの問いと同時に岩山に風が吹いた。そしてカレッジは風が止むと同時に口を開いた。
「自分の信念を曲げたら、それこそ後悔するだけだ。それにシースルー・アイスノックという男は自分の信念を曲げる男じゃないだろ?それにな・・・」
アイスノックは振り返ってカレッジの顔を見ると、痩せこけた顔で笑みを浮かべていた。
「お前は女を傷つける勇気もないから無理だろ」
「・・・・・・フッ。あぁそうだなバカなことを聞いて悪かった」
カレッジの笑みを見てアイスノックもまた笑みをこぼした先ほどまでの曇った表情が晴れたようにアイスノックの表情は晴々としていた。
アイスノックは一時間ほど墓の前から離れなかった。カレッジもアイスノックに付き合うようにただ後ろでアイスノックを見守っていた。
そしてアイスノックが立ち上がると、カレッジに笑顔で告げた。
「さて帰るかカレッジ。麗しの女性たちが俺を待っている」
「あぁそうだな。レゲンのところに戻るか」
二人はリットルの町を目指して岩山から出発した。墓を背にして振り返ることなくただ歩みを進める。背負うには重すぎる罪と苦しんだ者たちの思いを背負いながら。
苦しみと迷いから解放された誇り高き騎士が静かに眠る墓をその場に残して。
今回も読んでいただきありがとうございます。これにて3章完結になります。いやー途中で週ニ更新に切り替えましたが二ヶ月かかってしまった。長かった。
来週から4章に突入します。4章は久々に登場するヒロインたちの話ですね。エメリアとリケイル、レミア。そして新キャラが登場するのでぜひ4章も読んでいただけると嬉しいです。
ではまた来週。