合わせる顔がない
アイスノックがパージを倒したその後ろでカレッジは血があふれる腹を押さえていた。
目を擦りながらパージの最後の戦いを見ていたのだ。
もうカレッジには立っている元気はなく目は霞み視界が歪む。意識が遠のきそうだということがふらふらと安定しない身体から伝わっくる。
「大丈夫か!?カレッジ!!」
カレッジの様子に気づいたアイスノックが駆け寄ってきた。
カレッジは覇気のない笑顔を見せながらアイスノックを見た。
「・・・・・・あぁ。目が霞むし、寒いが何とか大丈夫だ」
「待ってろ。すぐ下のレゲンを呼んでくる。気絶するなよ!!」
「・・・・・・あぁ。このまま死んだらパージさんや師匠に合わせる顔がないから・・・・・・な」
アイスノックは塔の階段を急いで駆け降りて塔の下にいるレゲンを呼びにいった。
カレッジは目を擦りながらも意識を保とうとするが、視界をがぼやけているのか塔の床に手をついた。
身体は貧血による体温の低下かそれとも皮膚に突き刺さる夜風の冷たさからか指先まで震えていた。
ふとパージの死体が視界に入った。獣の死体が血の湖の上に浮かんでいる。
そしてその死体の横に何がいることに気づいた。
黒馬に乗馬した黒い鎧を身につけた騎士だ。わかることは腰に真っ黒な剣を携えたこととその騎士が女性だということ、人ではない異形のものだということだ。
女性とわかる理由は鎧の胸元が開き、豊満なバストが見えているからだ。アイスノックがいたら即ナンパしたに違いないだろう。
しかし、彼女の顔を見たらそんな邪な考えは消え去るだろう。
なぜなら彼女の首から上は存在しないのだから。
彼女がまたがる馬にも頭がなく、彼女や馬の首からは禍々しい黒い煙のようなモヤが出ていた。
彼女の頭はないが魂の抜けたパージの死体に身体を向けており、馬の上からパージの死体を見下ろしていた。
そしてゆっくりとカレッジの方に身体を向けた。
(この魔物は貴様が倒したのか?)
突然カレッジの頭の中にゆったりとした女性の声が響き渡った。
貧血による幻覚か幻聴か、それとも現実なのかそれはわからない。だがカレッジは血が回らない脳を働かせて言葉を考えて口にだす。
「・・・・・・あぁ。正確には俺たちだがな」
(そうか・・・それは失礼した)
朦朧とする意識でカレッジは何とか頭のない彼女を視界に収める。
「あんたが噂に聞くデュラハンか・・・幻覚かもしれないが実際に見れて感動したぜ」
(私も長いこと生きているからな・・・・・・しかし私を見ても怖気付かないとは見事だな)
「生憎こっちは死にかけでな・・・そんな余裕はないんだ」
(そうか、それはタイミングが悪かったな・・・・・・それとも私があの世からの使いに見えているのか?)
「いや見えないな・・・あの世へ女性がエスコートしてくれるならぜひお受けしたいが・・・」
(フッ・・・面白いやつだ。安心しろ私はあの世からの使いではない・・・・・・ん?お前のその武器)
デュラハンはカレッジの持っているブレイドに気がついた様子だった。首を傾け存在しない頭がブレイドを見つめているようだった。
(その武器を持っているということはシール王国の者か?)
「・・・・・・あぁ元な」
(そうか・・・・・・その武器は大事にしろ。誇り高き者にその武器は相応しいからな)
「言われなくてもそのつもりだ」
(フフッ・・・邪魔したな誇り高き騎士よ。ではさらばだ)
デュラハンはそういうと馬の手綱を握った。すると頭のない黒馬は塔の外にかけていくと岩山を力強い脚で蹴りながらどこかへ飛んでいった。
黒い鎧で身を包んだデュラハンの姿が闇に溶けて見えなくなるのは数秒もかからなかった。
「大丈夫かカレッジ!!」
「先輩大丈夫ですか!?」
後ろからアイスノックとレゲンの声が聞こえてきた。アイスノックがレゲンを呼んで戻ってきたのだ。
その後カレッジはレゲンに担がれリットルの街に向った。そして医者に診てもらい一命を取り留めた。
塔であったデュラハンのことは幻覚か現実かわからないため、カレッジは二人にそのことは告げなかった。