誇りを拾う
パージは口から黒い煙を上げながらもゆっくりと起きあがろうとしていた。身体の中の臓器、骨は爆発でいくつか損傷していた。
身体をふらつかせながらも立ちあがろうとするパージの目の前に突然剣と唐草模様の短剣が放り投げられた。先ほどパージが塔の床に放り捨てた武器だ。
目の前を見るとアイスノックがパージの目の前に立っていた。
「何のつもりだ?剣などなくても貴様と戦えるが」
「拾えよ師匠・・・・・・決着をつけようぜ」
「フッ・・・・・・教えたはずだ同じ武器での決闘は自分の誇りを懸ける際に行えと」
「・・・・・・それが今さ。カレッジはもう意識を保つのでやっとだ。俺と師匠の一騎打ちだ」
アイスノックの言葉を聞くとパージは塔の床に落ちた剣に目を落とした。どこか拾うのを躊躇うように手が震えていた。
「拾えよ師匠。誇りを賭けて俺と戦ってくれ」
アイスノックの言葉を聞き何かを決意したようにパージは剣と唐草模様の短剣を拾って立ち上がった。
お互い剣と短剣をそれぞれの手に持ち構える。そしてお互いに間合いをあけ、斬りかかるタイミングを測っていた。
そしてパージがその黒い巨体でアイスノックに斬りかかった。
アイスノックはパージの剣を正面から受け止める。
まるで鏡の中に映る自分自身と斬り合うように二人の剣の持ち方、斬りかかる角度まで左右対称に同じだった。
二人はお互いに剣を打ち付け合った。何か気持ちぶつけるようにして、そしてパージが斬り合いながら口を開いた。
「相変わらず剣の腕前は衰えていないなシースルー!!」
「師匠こそな!!昔と変わらないな」
「女性を傷つけていないだろうな?」
「あぁ、師匠の言いつけ通りやってるよ」
親しそうに会話する二人はどこか楽しそうだった。しかしパージは剣を打ち付け合いながらも歯を食いしばった。
「シースルー・・・お前は国を、シール王国を滅ぼしたことを後悔しているか?」
「後悔はしてない。俺は今満足しているからな」
「お前の心を満たしているのはなんだ?戦いか?それとも仲間か?」
「それもあるが・・・・・・好きな女のために戦えることに俺は満足している!!」
アイスノックの言葉を聞くとパージの剣を握る力が弱った。
そしてアイスノックはパージの剣を弾くとパージの懐がガラ空きになった。
次の瞬間宙に赤い血飛沫が飛んだ。
アイスノックがパージの胸にある古傷にそうように斜めに斬り裂いたのだ。
闇に包まれた虚空を綺麗な鮮血が染めようとする中、それでも倒れまいとするパージ。
そんなパージを見てアイスノックは渾身の力をこめて短刀をパージの胸の中心に突き立てた。
胸に短刀が刺さるとパージは糸が切れた人形のように塔の床に崩れ落ちた。その顔は何か憑き物が落ちたような顔をしていた。
「シースルー・・・・・・最後にトドメをしっかりと刺したのは見事だっだぞ」
塔の床をパージの赤い血が染めていく。パージの周りを血の水溜まりがゆっくりとだが形成されていった。
「師匠・・・・・・俺は・・・」
「何も言わなくていい・・・・・・勝者こそが正義だ。嫌というほど王国時代に経験しただろう」
パージはゆっくりとだが確実に言葉を話そうと口を動かすが、段々と口の動きが遅くなっていく。
「最後の・・・・・・教えだ・・・聞けシー・・・スルー」
パージは変わり果てた猟犬の顔でシースルーの顔を見つめた。姿が変わってもわかる。彼は今穏やかに笑っていた。
「守りたいものは・・・・・・しっかりと・・・・・・その手で守れ・・・・・・それが最後の・・・」
言葉を告げ終わり前にパージの口の動きが止まった。そしてその後ゆっくりと瞼を閉じるとパージはピクリとも動かなくなった。
アイスノックは言葉を聞くとパージの鋭い爪と黒い体毛で包まれた手を優しく握った。
「あぁ・・・・・・わかったよ師匠」
冷たくなった獣の肉体を残して、誇り高き騎士の魂は旅立っていった。