命を賭けて
不気味な猟犬の姿に変貌したパージを見てカレッジとアイスノックは困惑していた。
目は赤くあやしく輝き、針のように細くきめ細やかな黒い体毛が身体中を包んでいた。頬を大きく裂いた口元、そしてそこから鋭く伸びた牙。その牙をつたうようによだれが滴り落ちていた。パージだったころの面影は腐って半分崩れた顔と身体にできていた切り傷や火傷傷しかない。
「悪ガキ共・・・お前らにハイレプリカの力を見せてやろう」
そう話すと両手、両足の爪を塔の床に突き立てるとパージは口を大きく開いた。
口の中でマグマのような赤い輝きが何かをためるような音ともに見える。
そしてパージは口の中の赤い輝きをカレッジたち目掛けて発射した。
カレッジたち目掛けて発射された赤い輝きは直線的な軌道を描きながらカレッジたちに向かっていく。塔の床がまるでマグマが流れたように溶解し、矢のようなスピードで迫っていた。
「避けろ!!アイスノック!!」
カレッジがアイスノックを着き飛ばすとパージの放った輝きはカレッジたちの真横を通過し暗闇に包まれた塔の外へと飛んでいった。
そしてしばらくするとドーンという轟音がカレッジたちの耳に届いた。先ほどカレッジたちが避けた輝きが遠くの岩山に直撃し大爆発を起こしたのだ。
遠くから音や衝撃とともに太陽のような明るい輝きが塔を照らした。
「ウオォォォォォォォンンンン!!!!」
パージは自身の力に興奮しているのかそれともハイレプリカの影響によるものなのか雄叫びや遠吠えにも似た声をだした。
「カレッジどうする?俺はまた逃げるのはお断りだぜ」
「もちろん戦うさ・・・・・・それに逃げるのは無理だ」
「なぜだ?」
アイスノックがカレッジの方を見るとカレッジは自身の脇腹を抑えていた。脇腹からは服の上からわかるぐらい赤い血が滲みでてきていた。
「さっきパージに蹴られた時、イルマから受けた腹の傷が開いた。これじゃあ逃げきれない」
「じゃあ選択肢は一つしかないな」
「ところでアイスノック・・・・・・賭け事は好きか?」
「なんだこんな時に突然!?お前賭け事弱いだろ!!」
「俺が賭けるんじゃない・・・・・・お前が賭けるのさ。俺はただのチップだ」
赤くなった脇腹を抑え、辛そうな表情でアイスノックを見るカレッジの目はまだ諦めていないぞと訴えていた。
「作戦を聴かせろカレッジ。その賭けのってやる」
カレッジがアイスノックに作戦を伝えると黒い大きな影が近づいてきた。
「話し合いは終わったか悪ガキ共」
パージは口から白い煙を出しながらカレッジたちの方へとゆっくり歩みを進めていた。
カレッジとアイスノックは剣を構えた。二人ともなにか覚悟を決めたような表情をしてパージを見据えていた。
「何か腹を決めたようだが俺には勝てんぞ悪ガキ共!!」
パージは獣が大地を駆けるように四足歩行で走りながらカレッジたちに猛スピードで迫ってきた。
するとアイスノックは塔の床に手を当てた。すると塔の床から大量の水が噴き出てきた。そして出てきた大量の水は津波を形成してパージを押し流そうと迫っていった。
「フッ。近づくのを恐れて遠距離に切り替えたか。だが甘いわ!!」
パージは口から赤色の輝きを放ち薙ぎ払うように津波に当てると津波は形を失い崩れ落ちた。
津波の水が雨のようにあたりに落ちきるなかカレッジがパシャパシャと水音を立てながらパージに迫ってきていた。
カレッジの白い剣がパージを斬りつける。しかしパージはカレッジの剣を簡単に腕で受け止めてみせた。
「残念だったな。この体毛の鎧は簡単には刃を通さん」
パージは突然振り返ると何もない虚空を爪で突き刺した。すると虚空から赤い血が垂れてきた。
先ほど斬りつけてきたカレッジが蜃気楼のように消えると赤い血が垂れてきた場所からカレッジの姿が現れた。
パージ爪はカレッジの腹を貫いていた。パージの腕をつたってカレッジの血液が塔の床に落ちる。カレッジの血が塔の床に形成された水たまりを赤く染めた。
「津波を崩した時に水魔法で幻術をかけたことはわかっていた。この姿での俺の嗅覚は魔法の匂いを嗅ぎ分ける」
カレッジは剣をパージの胸の古傷目掛けて突き立てるがパージは爪で剣を弾くとカレッジの左肩に牙を突き立て噛み付いた。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
カレッジが悲痛な叫びをあげるなかパージは牙を突き立てながら笑っていた。
ギシギシと骨が軋む音がカレッジの悲痛な叫びとともにあたりに響き渡る。
「このまま消し飛ばしてやろう」
パージがカレッジにトドメを刺そうとした時後ろからパシャパシャと水音を立ててこちらに向かって走ってくることに気がついた。
パージが振り向くとそこには剣を持ったアイスノックが迫ってきていた。
「正面から向かってくるかシースルー!!」
パージはカレッジから牙を離しアイスノックの方向を振り返ったその時だった。ザクっという生々しい音がパージの耳を包んだ。
カレッジがパージの鼻に剣を突き立てたのだ。
「うあぁぁぁぁ!!カレッジ貴様!!!!」
カレッジの腹から突き立てた爪を引き抜くがカレッジにトドメを刺している時間はない。アイスノックに対処しなければならないからだ。
しかしパージの耳にポチャンという水音が響いた。すると眼前のアイスノックが二人に増えたのだ。
嗅覚での魔法の判別はできない。どちらかがアイスノックが作り出した幻術であり、片方を外せば攻撃をくらう。
「くっ!?ならばどちらも吹き飛ばすまでだ!!」
パージが口を開き赤い輝きが口の中に集まっていった。そして赤い輝きが放たれようとしたその時。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
アイスノックがパージの口の中目掛けて、メタモルフィアでできた左手を突っ込んだ。
すると赤い輝きは出口を失いパージの体の中で爆発した。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
口や目から黒い煙を上げながらパージは塔の床に倒れ込んだ。
「狙い通り口を開けてくれたな。賭けは俺たち勝ちのようだなカレッジ」
「・・・・・・あぁ。チップは一枚しかなかったのに大当たりを引いたな」
久々に余談です。水魔法をかける合図は水音になります。ポチャンとかパシャとかですね。
ちなみに水魔法の幻術は魔力量に圧倒的差があるとかからない設定です。
つまりカレッジがこの世界における幻術メタです。
明日も更新しますのでよろしくお願いします。