腐った忠犬
カレッジとアイスノックはラゴントの塔の階段を駆け上がっていた。そして月明かり差し込み階段の終わりが見えてくると屋上に出た。
開けた塔の屋上にはフルフェイスの甲冑をつけた男が立っていた。
昔憧れていた男だった。
尊敬の眼差しで見つめ、その強さと高潔さを尊敬していた。
戦いを教えてもらい、戦場では助けてもらったこともある。
そして今は敵として相対する男。パージクラッシュボーン。
「来たか悪ガキ共・・・・・・改めて確認するが貴様ら二人が王国滅亡の主犯で間違いないな?」
怒りで声を低くしながらも堪えるように話すパージは拳を握りフルフルと震わせていた。
「ああそうだ師匠。俺たち二人が国を滅ぼす決断をした」
アイスノックの言葉を聞くとパージは勢いよく腰の剣と短刀を抜いた。
「パージさん。貴方もわかっているはずだ。民がいなければ国はなりたたない」
「黙れ裏切り者共め!!王あっての国だ。我が同胞たちが三百年守ってきた物をお前らが壊した事実は変わらんだろうが!!」
怒りと憎しみをぶつけるように言葉を吐くパージにカレッジとアイスノックは諦めたように剣を抜き構えた。
カレッジはオリジンシリーズであるブレイドを両手にそれぞれ持った。
アイスノックも腰の剣を抜くと、左手に短刀を持った。
「・・・・・・何のつもりだシースルー?」
武器を握ったアイスノック姿はまるでパージを鏡に写したように同じ武器を持ち、同じ構えをしていた。
「これは誇りをかけた戦いだ。だから師匠に教わった通り相手と同じ武器で戦うのさ」
パージはアイスノックの言葉を聞くと武器を握る手に力が入りフルフルと武器を震わせ血管が手の甲に浮かび上がった。
「バカにするのも大概にしろ!!貴様に誇りを語る資格などないわ!!!」
パージは声を荒げるとカレッジとアイスノックに斬りかかるために突進してきた。
カレッジは白いブレイドを大きく横に振った。魔力の刃をパージに向けて飛ばしたのだ。
しかしパージは勢いを殺すことなく、目の前に手をかざすと手のひらから火がまるで液体のようにパージの目の前に溢れ出した。
ブレイドの刃をは目の前の火にぶつかると三日月状に火の壁を突き破った。
パージはブレイドの刃をギリギリで躱しアイスノックに斬りかかった。
キンッ。剣を打ちつけ合う音があたりに響いた。
アイスノックとパージは剣をお互い力強く押し合い、打ちつけ合う。剣の間には火花が散っていた。
「シースルーお前が王国を裏切る時、俺を後ろから斬ったのは俺との戦いを避けたかったからだろう?」
「・・・・・・あぁ。そうだよ俺は師匠と正面から戦いたくなかった」
「情けない弟子を育てた物だ。教えたはずだ敵とは正面から戦い、誇りをかけた戦いには同じ武器を使い相手に完全に勝てと。そして国を守るために強くなれと」
パージはアイスノックの短剣を衝撃のレプリカで払いのけると短剣をアイスノックの肩に突き刺した。
「衝撃のレプリカ!!」
パージの言葉とともにアイスノックの肩に刺さった短剣から体の中に衝撃が伝わった。
「ぐっ!!」
アイスノックが苦悶の表情を浮かべる中、カレッジがパージに斬りかかった。
パージは短剣を抜きながらアイスノックを蹴飛ばすとカレッジの二本の剣を剣一本で受け止めた。
そしてカレッジの脇腹に重い蹴りをくらわせた。
「ぐふっ!!」
カレッジは蹴飛ばされた勢いで吹き飛ばされ、脇腹に走った重い衝撃からか腹を抑えていた。
「貴様もだカレッジ。パワスが悲しんでいるぞ」
「そんなことはない。師匠は民のために戦えと言っていた」
「国あっての民だ。我々騎士は国に忠誠を誓えと教えたはずだ」
パージが話しているとアイスノックが再びパージに斬りかかった。
パージは足音で気づいたのかアイスノックの剣を簡単に剣で受け止めてみせた。
「シースルー。国になぜ忠誠を誓わなかった!!」
「・・・・・・女性が泣いていたからだ。女性を泣かせる国が正しいわけがねぇ!!」
「ッツ!!」
パージは一瞬動揺が走ったためか剣を受け止める力が緩んだ。アイスノックはその一瞬の隙を見逃さなかった。
アイスノックは短剣をパージの顔面目掛けて斬りあげたのだ。
パージの頭の甲冑が空中を舞った。月明かりが照らしパージの顔が見えてきた。
その顔は顔半分が焼けただれ腐ったように崩れ落ちており、顔からは水のような汁が垂れていた。その衝撃的な風貌をみたアイスノックは一瞬時が止まったようにその場から動けなかった。
アイスノックが立ち止まっていたことに気づいたのはパージの甲冑がカランと音を立てて地面に落ちてからだった。
「はっ!?」
目の前には火傷で崩れた顔で鬼気迫る表情で斬りかかろうとするパージいた。アイスノックは咄嗟に防ごうとするも間に合わなかった。
カランという何かが落ちる音が周りに響いた。
結論からいうとアイスノックは無傷だ。カレッジがパージの持つ短剣を魔力の刃を飛ばして手から弾いたのだ。
パージはアイスノックから距離をとると剣を床に投げ捨てた。
「確かに女性を守るようにとも教えた・・・・・・しかし俺がお前が正しいと認める理由にはならん」
パージは服のポケットから黒い小石を取り出した。そしてそれを口の中に放り込むと小石を飲み込んだ。
「見せてやろう。お前らにハイレプリカの力を」
パージの体は一回り大きくなると黒い体毛が身体中から生えてきた。牙が口から飛び出すように鋭利に伸び始め、顔も猟犬のように変化した。肩にも犬の顔のような装飾が形成された。
身体中の切り傷や古傷が残り、猟犬のような顔が半分腐り、崩れていた。
その姿はまるで火の中に落ちて這い上がってきたような傷だらけの猟犬。
「さぁ・・・・・・どちらの正義が正しいか教えてやろう悪ガキ共!!」