私の剣(こころ)ここにあらず
早朝カレッジたちはセイゲンの丘にいた。三人とも決闘場所を知っていたがよく考えたら時間を言われていなかったため、早朝から決闘場所で待つことにしたのだ。
セイゲンの丘。緑の草原、清々しい風が肌にあたる。
そんな平和そのものな丘の中央に白髪の老人が座っていた。イルマ・カーストだ。
「早いな爺さん。朝じゃ目立たないか?夜まで待つか」
カレッジの言葉にイルマはサーベルを杖代わりにして立ち上がった。レゲンから受けた傷も完治している。
「老人は朝が早いんだ。それに夜じゃ目がきかないからな。さっさと始めるぞ」
「・・・・・・そうかい」
カレッジは言葉を告げ終えると両腰から剣を引き抜いた。日差しが白と黒の剣を照らし、白い剣が純白の雪のように白い光沢が明るく煌めき、黒い剣が漆のように黒い光沢が鈍く光る。
イルマもサーベルを引き抜くと、刀身が日に照らされ銀色に輝く。
「この決闘の立会人はこのアイスノックが務めよう」
丘に吹く風が草原の葉を飛ばす。カレッジとイルマの間に緊張感が包み込む。
「では始め!!」
アイスノックの言葉ともにキンッという金属を打ち付け合う音が草原に響き渡った。
二人の剣が火花を上げながら打ち付け合った。
だが肉体年齢の差か、はたまた武器の数の差か、鍔迫り合いはカレッジが明らかに押していた。
「正面の打ち合いは俺の方が武があるな」
「・・・・・・そうだな。なら一手打つとしよう」
イルマはサーベルを滑らすようにカレッジの剣を下に弾いた。カレッジの剣は力の方向が下に向かったためか、切先が地面についた。
イルマはサーベルを頭上に上げ、カレッジの頭を目掛けて勢いよく振り下ろした。
カレッジは完全にバランスが崩れ、イルマのサーベルを受け止める術がない。火魔法で身体強化して避けようにも、バランスが崩れたこの状態では回避しようがない。
サーベルが迫る中カレッジは体を少し動かすと左肩でサーベルを受けた。傷口から血がマグマのように噴き出す。
だがイルマは次の瞬間、一手打たれたのは自分だったと思い知らせることになった。
カレッジが右に持った白い剣でイルマの腹目掛けて突きを繰り出したからだ。攻撃をわざと受けて反撃したのだ。
「くっ!!こいつわざと攻撃を」
イルマはサーベルを肩から引き抜き、突きを躱わすために後ろに飛んだ。
カレッジの繰り出した突きは、あと僅かにイルマの腹に届かなかった。
イルマも完全に躱したと笑みを浮かべた瞬間。
ドスっとイルマの下腹部に重い衝撃が通り過ぎるのを感じた。
イルマの腹を見えない何かが貫通したように、丸い風穴が空いていた。腹に空いた穴を埋めるようにイルマの血液が腹から滲み出てくる。
「ガハッ・・・・・・ブレイドは斬撃を飛ばす武器ではなかったのか?」
「あぁそうだ。だが突きを飛ばせないとは誰も言ってないぜ」
カレッジとイルマは互いに血を体から流しながらも剣を構えた。滴り落ちた血が緑の草原に落ち、葉を赤く染める。
「・・・・・・・・・しかし、今のでがっかりした」
「なんだ負け惜しみか?」
イルマの言葉にカレッジは怪訝そうに言い返すがイルマは腹の傷を押さえながらもカレッジを睨みつけた。
「お前はパワス・ヒートハート以下だ。あいつは私の剣を木の棒一本で軽くいなしてみせた。傷一つ負うことすらなくな!!」
青筋をたてながら激昂するイルマにカレッジは冷静に、しかし声色からはイラつきを感じるように言葉を返した。
「今がお前が戦ってるのは師匠じゃないだろ。昔の幻影に囚われてるんじゃないぞ」
「なら、パワスから受け継いだ物はなんだ?騎士団長という称号か?ブレイドの本当の使い方か?私に使って見せてみろ」
「・・・・・・」
イルマの言葉にカレッジは言葉を詰まらせたように沈黙した。
「所詮、パワスから受け継いだものを全て壊した、裏切りの騎士よ!!」
イルマはカレッジに斬り掛かった。サーベルを素早く、そして的確にカレッジを斬りつける。剣の嵐がカレッジを襲った。
カレッジはイルマのサーベルを両手の剣で受け止めたり受け流すが反撃を許さないイルマの剣はカレッジを攻め立てる。
「どうした。そんなものか?シールの騎士よ!!」
イルマの剣は確実にカレッジを仕留めようと激しさがまし、カレッジの皮膚を擦り傷を負わせていった。
そしてズブッという鈍い音が静かな草原に響き渡った。イルマのサーベルがカレッジの腹を貫いのだ。
「グフッ」
カレッジが口から血をこぼすとイルマはサーベルをカレッジの腹から勢いよく引き抜いた。
引き抜かれたサーベルは血で染まり、地面に落ちる血が草原を赤く染めた。
「所詮貴様はパワスの意思さえ引き継げなかった、失敗作よ」
カレッジは両膝を着き、ただ黙ってイルマの言葉を聞いていた。剣の切先も地面に着き呼吸も荒い。
そんなカレッジを見て、トドメとはかりにイルマはサーベルを振り上げた。
「さらばだ。パワスの紛い物よ!!!!」
イルマはサーベルを勢いよくカレッジの脳天目掛けて振り下ろした。
しかし、サーベルはカレッジに届くことはなかった。なぜならカレッジが二本の剣でサーベルを受け止めたからだ。
「・・・・・・好き勝手言いやがって。何も知らないのに師匠を語るんじゃねぇ!!」
カレッジは勢いよくサーベルを弾き返した。イルマのサーベルは頭の上に上がりイルマの懐がガラ空きになった。
カレッジはそのスキを見逃さず黒い剣でイルマを斬りつけた。
ノの字に斬られた傷はイルマの左脇腹から右胸部にかけて上半身、右目を斬り裂いた。
斬り裂かれたイルマの傷口からドロっと血がゆっくりと体を伝っていく。
斬られた痛みからイルマは一瞬怯んだが、歯を食いしばると再びカレッジ目掛けてサーベルを振り下ろした。
「私を舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
イルマの声と共にパキンという音があたりに響いた。
イルマのサーベルの刀身が宙を舞い、地面に落ちていく。
カレッジがイルマを切り裂いた時ブレイドの斬撃を設置していたため、サーベルの刀身が折れたのだ。
剣士としての武器であり、誇りであり、心とも言える剣が折られた。
自身が認めたくなかった相手に。
何も受け継いでいない空っぽだと思っていた男に。
イルマは折れたサーベルを見て、刀身が折れたことを理解すると満足そうに後ろに倒れた。
空を見て脱力したように、草原に大の字で横たわった。
「フッ・・・・・・俺の負けだ」
イルマが負けを認めカレッジが決闘に勝利した。
「この勝負。カレッジ・スペードの勝利」
アイスノックが戦いの終了を告げるとレゲンがカレッジに駆け寄った。
「大丈夫ですか?先輩」
「あぁ・・・・・・なんとかな」
カレッジは腹の傷口を押さえながらもイルマに近づいた。イルマは雲一つない青空をただ見つめていた。
「俺が師匠から受けづいたことは騎士団長という肩書きやブレイドだけじゃない」
イルマはカレッジの言葉に疑問を持った顔でカレッジを見た。
「師匠からは国じゃなく、国民のために戦えと教わった。民を守り、奮い立たせる勇気の剣になれとな。それが師匠から受け継いだ騎士道精神だ」
その言葉を聞くとイルマは満足そうに微笑んだ。
「私の負けだよ。決闘も・・・・・・剣士としてもな」
「さて約束通りパージとの集合場所を聞こうか」
カレッジが問いかけるとイルマは顔を横に向けた。視線の先にはルーラ王国との国境があった。
「ルーラ王国との国境を超えた場所にある・・・ラゴントの塔。四日後の夜に集まる予定だ」
「国境を越えるのか!?」
アイスノックが喜びと驚きが入り混じったような声を上げた。
「我々は協力者がいるから国境をスルーして入れる予定だった・・・・・・お前らでは無理だろうな」
「協力者ってのは誰だ?」
「さぁな名前は知らんし、脱獄した時は暗闇で顔が良く見えなかったからわからん」
「そうか・・・・・・情報感謝するイルマ・カースト」
カレッジはそう言い残すとイルマに背を向けて、メリアスの方向に歩き出した。
「待て!!トドメを刺していけ」
イルマの言葉にカレッジは振り返るとニカっと笑った。
「レゲンとの戦いを邪魔した詫びだ、トドメは刺さない。それにしばらくすれば動けるだろう。生きて自主するもそのまま死ぬもお前に任せるよ」
「・・・・・・そうか」
カレッジの言葉にイルマは脱力したように再び草原に頭を落とした。
カレッジたちは振り返らずメリアスに戻っていくのだった。
設定の矛盾というか突っ込まれそうなので補足。
イルマは元々ミサハ王国出身です。シール王国で捕まりましたが、王国が停戦状態にあったため身柄はミサハに引き渡されました。そしてカラトナ要塞に投獄されました。
今回のお話いかがだったでしょうか。引き続き読んでいただけると嬉しいです。
ではまた来週。