お前が決闘相手になるんだよ!
フルバイエの時計台の中。傷口を抑え壁にもたれかかる白髪の初老の男がいた。イルマ・カーストだ。
イルマ・カーストはレゲンとの戦いの傷がいえず休んでいた。
「この傷の結晶出血はないが、傷口に食い込むように張り付いていてとれんな」
頬の傷口から生えた赤色の結晶を手で取ろうと引っ張っていた。その時カツンカツンと時計台の階段を登る音が複数聞こえてきた。
イルマはサーベルに手を掛け、戦闘体制に入る。
扉を開けて入ってきたのはイルマには見覚えのある男たち、カレッジとレゲンだった。
「やっぱりここだったか。レゲンの勘があたったな」
「やはり元の場所に戻っていましたか。ここなら目立ちませんしね」
イルマはサーベルから手を離さずカレッジたちを睨みつける。
「私になんのようだ?トドメを刺しにきたか?」
「待て!!話をしに来ただけだ」
「・・・・・・話だと?」
キョトンとした表情をするイルマにカレッジは真剣な表情をしていた。
「さっきは勝負を中断させて悪かった。お詫びに再戦の機会をもうけさせてもらえないか?」
「・・・目的はなんだ?」
突然の申し出にイルマはカレッジたちを睨みつけた。サーベルを握る手に力が入っているのかプルプルと震え警戒を解く様子はない。
「パージとの合流場所を知りたい。だからレゲンとの決闘に勝ったら情報があれば教えてほしい」
「なるほどな・・・しかし、その男にはお前が邪魔しなければ勝っていた。その申し出は断る」
「えっ・・・まじか!?」
予想がハズレて驚愕するカレッジにレゲンは後ろから声をかけた。
「確かにあの時先輩の邪魔がなければあなたが勝っていました。しかしこの状況でこの申し出を断ればあなたは命を落としますよ?」
レゲンはクリスタルに手をかけつつ、イルマを睨みつけるとイルマは不敵に笑みを見せた。
「そう早まるな。決闘を断るわけではない・・・カレッジ・スペード。貴様が決闘に勝ったら教えてやろう」
「・・・・・おれ!?」
驚く表情を浮かべるカレッジにイルマ笑みを崩さず話を続けた。
「パージとは一週間後ある場所で落ち合う予定になっている。だがこの傷だ。すぐに戦っても私は負けるだろう」
イルマはサーベルを杖の代わりにして立ち上がった。結晶が飛び出た傷口からポロポロと血で赤くなった結晶の破片が床に落ちていく。
「三日後・・・セイゲンの丘に来い。そこで決闘としよう」
「・・・・・・いいだろう。その決闘受けよう」
カレッジが決闘を承諾するとイルマはサーベルを杖代わりにしながらカレッジとレゲンの間をゆっくりと通り抜けると階段を降りて行った。
「先輩いいんですか?あの男相当強いですよ」
「師匠が倒した男だ。俺もシールの元騎士団長としてこの決闘負けるわけにはいかないな」
二人は時計台から降りるとエメリアとアイスノックが待つ時計台の入り口に向かうので合った。
時計台から出るとアイスノックとエメリアが待っていた。
「どうでしたか?師匠」
首を傾げてカレッジを見つめるエメリアとは対照的に静かにアイスノックは遠くを見ていた。
目の前に綺麗な女性や妖艶な娼婦などが通り過ぎても見向きもせず、何かを警戒するように目を光らせていた。
先程まで女遊びをしていた男とは思えないほどに彼の顔つきは真剣であり、彼には余裕がないのだろう。
「俺とイルマが戦うことになった」
「師匠が戦うことになったんですか!?」
驚きと心配の表情を浮かべるエメリアを見てカレッジは少し考えるように顎に手を当てるとエメリアの真剣そうな眼差しで見つめた。
「・・・・・・エメリア。お前は家に帰ってリケイルと待っててくれないか」
「え!?なんでですか?」
驚く表情を浮かべるエメリアにカレッジは冷静に声をかける。
「まだ囚人も残ってるし、レゲンの話だとオリジンシリーズを狙っているやつもいる。リケイル一人じゃ朝は迎えうてないしな」
エメリアは少し心配そうな表情を見せたが、しばらくすると笑みをを浮かべた。
「わかりました。リケイルさんと一緒に師匠たちを待ってます。絶対帰ってきてくださいね」
「おう。絶対帰ってくるから待ってろ」
カレッジの力強い返事に満面の笑みを見せるとエメリアは街の方角に駆け出しカレッジたちに手を大きく振った。
「では家で待ってますからね」
カレッジとレゲンはエメリアに手を振り返し、姿が見えなくなるまでエメリアが消えた方角を静かに見つめていた。
「いいんですか?連れて行かなくて」
「リケイルが心配なのは本当だし。何より・・・エメリアをシールの王国の件に関わらせたくない」
「そうですか・・・ではいきましょうか」
三人の男たちはイルマから指定された場所を目指して旅立った。
決闘に勝つために。
自分たちの行いの意味を証明するために。
因縁に決着をつけるために。
それぞれの目的を胸に秘めて。