退却
パージはアイスノックにトドメを刺そうと衝撃のレプリカを振り上げた。
「さらばだ・・・出来の悪い弟子よ」
言葉を告げると膝をつくアイスノックに短刀を突き刺そうと振り押したその時。
噴水から噴き出る水のカーテンを破り、三日月型の物体が飛んできた。カレッジのブレイドが魔力の刃を飛ばしたのだ。
「舐められたもんだ。水滴で丸見えだ」
パージは剣で魔力の刃を叩き割った。魔力の刃はパキンとガラスを割るような音とともに粉々に砕け散った。
そして魔力の刃を叩き割った直後ボンっという何かが爆発するような音が噴水側から響き渡りあたりを白い霧がつつんだ。
「チッ!!カレッジめ火魔法を噴水の水に当てて水蒸気を作ったか」
目の前にいたアイスノックも白い霧に包まれ見えなくなってしまった。
そして霧の中のためか形がくっきりと浮かんだ三日月上の刃が三つ飛んできた。
「舐めおって。本当に当てる気があるのか?」
パージは簡単に魔力の刃を叩き割った。あたりにパキンという音が響くと魔力の刃はそれ以上飛んでこなかった。
「衝撃のレプリカ!!」
パージは地面に短刀を突き立てると衝撃波が地面からあたりに広がった。そのまま霧を衝撃波で吹き飛ばした。
あたりの霧は晴れたが目の前にいたアイスノックがいない。噴水にもカレッジの姿が消えていた。
噴水から噴き出す水が止まった時が、動き出すかのように噴水の中身を埋めていく。
あたりには騒ぎを聞きつけた憲兵や住民が集まってきていた。
「逃げたか・・・それとも隙を窺っているのか。まぁアイスノックは逃げるような性格ではないがカレッジは引き時を理解している男だからな。どう出てくるか」
パージはこちらに向かってくる憲兵に気がつくと逃げるように人混みの中に入りこみ姿は目で追えなくなってしまった。
「大丈夫か?アイスノック」
「・・・あぁ、まだ骨が軋むような感覚があるけどな」
アイスノックとカレッジは路地裏の壁に寄りかかりながら話していた。
アイスノックは口から血を垂らし糸が切れた人形を壁に立てかけているような、脱力した状態で壁に体重を任せていた。衝撃のレプリカでやられた胸元を押さえながら。
先程まで戦っていた噴水の広場には憲兵や住民、傭兵などが集まってきておりパージの姿は見えない。
「パージはいなくなったか・・・どうするアイスノック?パージを探すか」
「・・・・・・探すさ。この戦いはシール王国の因縁を断ち切る戦いでもあるし、俺の誇りをかけた戦いでもあるからな」
真剣そうな表情で話すのを見てカレッジは少し考えるように顎に手を当てた。
「・・・一旦ここは引かないか?」
「なんか考えがあるのか?」
「この街で戦い続けても憲兵やほかの傭兵に邪魔されて終わりだ。やつらの仲間から情報を引き出して別の場所で叩く」
「仲間ってこの街に囚人がいるかわからないだろう」
「一人いる・・・イルマっていう剣士が」
先ほどレゲンと戦っていた初老の剣士。レゲンから受けた傷でこの街から出られるほど動けているとは考えられない、この街にまだいるはずそうカレッジは考えていた。
「あの爺さんか、情報を引き出せるとは思えんが」
「そこは考えがある。まかせろ・・・まずはエメリアたちと合流だな」
カレッジとアイスノックは路地裏からでると水色の髪をした少女と茶髪のふんわりとした髪にボロボロの水色のバンダナを右腕に巻いた男が立っていた。
レゲンとエメリアだ。広場の騒ぎを聞きつけて帰ってきたのだろう。
「師匠とアイスノックさん大丈夫ですか?」
「あぁなんとかな。ちょうどよかった、レゲンお前に用があったんだ」
「僕にですか?」
キョトンとするレゲンにカレッジは真剣そうな表情で見つめた。
「イルマに決闘を申し込むぞ」