蹂躙する獣
ブルートランスから伸びた黒い触手はリケイルを繭のように包み込んだ。
そして繭のように包まれた物が中から風船のようにパンっと割れた。
中から現れたリケイルは先ほどまでの姿とは異なっていた。人型は保っているが、狼のような青い尻尾が生え、腕や足には獣のような青い体毛が鎧のように纏わりつき、頭にも甲冑のような獣の頭が噛みつくようにかぶさっていた。
ブルートランスはリケイルの腕に絡みつくように一体化していた。
ラキュラスはその姿を見て不気味に感じた。姿が変化したからではない。リケイルの胸元に丸く青い結晶がついていることだ。心臓から生えてきたように赤い血管が周りに集まり結晶の中にはうっすら心臓のようなものが見えている。
わずかな月明かりに照らされ青黒く反射するその姿は怪しくも美しい獣のようでもあり、獣を狩り集めその戦利品を身に纏ったに狩人にも見える。
「あたしがブルートランスに食われるまでの時間は五分・・・五分間あなたが耐えれば勝ちよ」
「耐えれば勝ち?ハッ貴方さっきのスピード見ていなかったの。時間切れまで逃げれるわ」
「それは難しいわね。だって今から始まるのは・・・蹂躙だから!!」
そういうとリケイルの背中からカラスような青黒い大きな翼がバサっと生えた。
次の瞬間、リケイルの姿が消えた。
「うっ!?」
突然背中にドンっと重い衝撃が走りラキュラスは地面に叩きつけられた。
空中を見てみると先ほどまで地上にいたリケイルが青黒い翼を羽ばたかせていた。
夜空を背にして羽ばたく姿はまるでキメラのようだった。
ランスを振り払い叩き落とされたのだ。
そのままリケイルは重力に身を任せラキュラス目掛けてブルートランスで突進する。
ラキュラスは間一髪ランスをよけたがあたり一面に激しい地響きが起こった、地面にはクレーターができた。
ラキュラスはリケイルの肩に呪印を付けようと噛み付いた。
「な、なによこの毛皮、硬い!!」
毛皮が硬すぎたため牙が皮膚まで届かない。そのスキをリケイルは見逃さず、ラキュラスの腕を掴みそのままぶん投げた。
投げられた拍子にラキュラスの腕は粘土のように簡単にちぎり取れた。
「くっ!?」
ラキュラスは投げられながらも体勢を立て直すと、先ほどちぎられた腕がバキバキと音をたてながら元通りに再生した。
「どう?見たでしょ。私は生命力を使って再生できるの貴方は私を倒せない」
しかし、次の瞬間ラキュラスは青ざめた。
リケイルが持っていた、ちぎれたラキュラスの腕がミイラのように干からびると塵になって消えたからだ。
「再生する?何度でもやったら。貴方はあたしに捕まった瞬間死ぬのだから」
「くっ!?」
ラキュラスはコウモリ様な翼を広げ、日が上り始めた空に飛び立った。
ラキュラスは空に逃げ、地上を見下ろすとリケイルがいないことに気づいた。
次の瞬間ドスッと重い衝撃が背中に走った。
背中からブルートランスで刺されたのだ。
「クソォォォォォォォォ!!!」
朝焼けに照らされながら、ラキュラスは塵になり消えた。
「日に照らされて塵になるとは、吸血鬼にふさわしい最後ね」
リケイルはゆっくり地面に降り、ブルートランスを解除すると体毛は吸い込まれるようにブルートランスに集まる。
そしてリケイルは地面に身を任せるように寝転んだ。
「ハァハァ・・・二分かかってしまった。また・・・貧血が酷くなる」
リケイルは疲れ切った顔で朝焼けに照らされながらも満足そうに笑うのであった。