ブルートランス
エメリアは牢屋で考えていた。どうやってここから脱出するかを。
だが考える必要はなかった、エメリアの求めていた回答が歩いてやってきたからだ。
「あ、いたいた」
ふと、顔を上げるとリケイルが立っていた。
「リケイルさん!?」
「ちょつと離れてて」
リケイルはブルートランスを牢屋に向かって大きく横に薙ぎ払うと牢屋の鉄格子は枝を折るように切断された。
「大丈夫だった?見た感じなにもされていないみたいだけど」
「はい。アイスノックって人が守ってくれました」
「やっぱり、そうだったのね」
リケイルはエメリアの縄を解くと、一緒に地下から脱出した。
そしてカレッジたちも合流するため屋敷の廊下を歩いていると。
ドーンと大きな音とともに壁を突き破り、鉄の塊が突進してきた。
そのままリケイルを押しつぶしそのまま壁を突き破っていった。
リケイルと鉄の塊は隣の部屋の中に吹き飛ばされる。
隣の部屋の壁に押しつぶされ突進が止まった。
「リケイルさん!!!」
エメリアが突き破られた部屋を覗くと、リケイルはブルートランスを盾にし突進を受け止めていた。
鉄の塊は動き出し、リケイルから離れ距離をとった。
よく見ると鉄の塊ではない。銀の鎧で全身を包んだ盗賊騎士だった。
「我が攻撃を受け止めるとは見事。さすがはシールの狂気リケイル・・・我が名はソキロフ。盗賊騎士団副団長である」
リケイルは壁から離れると、血が床に滴り落ちる。突進された際に右手が潰され骨折していた。
「・・・・・・エメリア先行きなさい」
「しかし、リケイルさん」
エメリアが心配の声をかけるとリケイルは澄んだ笑顔を向ける。
「いいから行きなさい」
笑顔だが圧を感じる。ブチ切れる寸前なのだろう。
「・・・・・・はい」
エメリアは回れ右すると走り出し急いでその場を離れた。
「我がレプリカは防御のレプリカ。リケイル・ロックダイス。貴様のブルートランスは効かぬぞ」
「よくも、あたしの手をおってくれたわね・・・レゲンくんを心配させちゃうじゃない!!!」
リケイルは勢いよくブルートランスをソキロフに突き立てた。
しかし、ブルートランスはキンッという音とともに火花がおこるだけでソキロフが話した通り、鎧に阻まれ刺さらない。
何度もブルートランスで連続で突き立てるが鎧には傷一つない。
「貴様はもう終わりだ。私に傷一つつけられないのだから」
リケイルはソキロフの言葉を静かに聞くと、自身の手から血を絞り出すように、ブルートランスにかけ始めた。
生き物の心臓のようにブルートランスが赤く鼓動する。
そして、ブルートランスを大きく引くとソキロフに突き刺した。
「狂ったか、この鎧は突き破れぬ!!!」
ソキロフはブルートランスを受け止めるために、手を広げた。
しかし、それはできなかった。ブルートランスがソキロフの腹を貫いたからだ。
「なぁ、な・・・に!?」
ソキロフはその言葉を最後にピクリとも動かなくなった。
おそらく鎧の下は血液がなくなったカラカラのミイラになっていることだろう。
「あたしのブルートランスはね・・・血を吸うと威力が増すのよ」
動かなくなった抜け殻の鎧に、リケイルは静かに語りかける。
ゆっくりとブルートランスを引き抜くと、初めから中身が入っていなかったように、鎧がバラバラになり床に落ちた。
リケイルは仕留めた獲物を見る肉食獣のように静かに落ちた鎧を満足そうな顔で見下していた。