癒えることのない傷
レットはかつてクレイだった緑色の化け物と剣を斬り結ぶ。
「クレイ、思い出せ! 魔物に心を呑まれるな」
「レット・ルダーク!!」
レットの言葉はクレイには届かない。恐らく空っぽだった心はもう魔物に呑み込まれてしまったのだろう。
まるで言葉を覚えたばかりの子供のようにレットの名前を叫ぶことしかしない。
それも憎しみが混じったような声をあげて。
クレイは乱暴に剣を打ち付け、レットは剣を塞ぐが魔物と化したクレイの剣の力は凄まじくレットの剣はすぐに弾かれてしまう。
「グッ!」
レットの肩がクレイの剣に斬り裂かれた。
しかしレットの持つリカバリングがレットの肩を再生させた。
「レット・ルダーク!!」
クレイの剣の嵐は止むことはなく、レットを斬りつける。
レットは懸命に剣の嵐を塞ぐがレットの身体はどんどん傷ついていく。
ついた傷をリカバリングが再生させる。
それを見てもクレイは剣を振い続ける。
それを繰り返してレットは何かを決意したように目を瞑るとクレイを剣で弾き飛ばした。
「グオォォォォォォ」
クレイは後方に吹き飛ばされるが、ゆらゆらと立ち上がる。
吹き飛ばされた際についた頬の傷から、緑色の血が床に落ちると、シューという音ともに煙をあげた。
クレイの血が床を溶かしたのだ。
「ご丁寧に三百年前のゴブリンの能力まで再現してるのか」
レットは剣を左手に持ち替えると右手を力強く握りしめた。
「クレイ・・・・・・もう終わりにしよう」
レットはクレイに剣を構え突進した。
そしてクレイの胸に剣を突き立てた。
「グオォォォォォォ! レット・ルダーク!!」
クレイの傷口から緑色の血が垂れ、レットの剣や左手を溶かし始めた。
レットの手が溶け、筋繊維や筋がむき出しになるがそれをリカバリングが元に戻す。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
レットは痛みを誤魔化すように叫ぶと自身の右手をクレイの傷口に突っ込んだ。
「グオォォォォォォ」
クレイの苦しむ声を聴きながら、レットの右手はそれを掴んだ。
そしてレットは右手で掴んだそれを握りつぶした。
クレイの身体から力抜け、床に倒れ伏せた。
身体の中に入った右手はクレイの心臓を握りつぶしたのだ。
レットはクレイの胸から右手をゆっくりと抜いた。
手には緑色の血が大量に付着しており、レットの手はもはや原型を留めていなかった。
しかしクレイの血はレットの手をそれ以上溶かすことはできなかった。
リカバリングが溶かす力に反発して、レットの身体を再生させていたからだ。
レットは右手を振い、血を飛ばすと溶けかけた自身の右手を見た。
先ほどの感触を思い出すかのようにゆっくりと手を握った。
右手はまだ細い骨しか形成できおらず、神経はないため感触は感じなかった。
しかしレットの頭には握りつぶした時の感触は残っていた。
「あの世で会ったら語り合おう・・・我が生涯の好敵手」
レットはクレイの亡骸に背を向けると、その場を立ち去った。
「三百年過ぎてもつくづく思うよ。心の傷も治せればいいのって・・・」
レットが震える声で発した言葉は誰にも聴こえなかった。
まるでその姿は生者にではなく、死者に話しかけているようだった。




