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ナイトパーティー  作者: 内山スク
9章 ミサハ動乱編

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老いた先に見る景色

 クレイが戦場に出たのは十代の頃だった。人と人が殺し合うのを初めて目にしたがクレイは臆することはなかった。

 初めての戦場でクレイは何百人と相手を討ち倒した。それからというもの戦場に出ては剣で鎧を叩き割り、斬りつけた。

 そんな作業のような日々を過ごすうちにクレイの名は国中に響き渡り鬼人と呼ばれるようになった。

 クレイは自分には敵はいないと思っていた。国に帰ると気に入った女を遊びに誘う。この生活に不満はなかった。なぜならクレイにとって人生は幸せで簡単な物に感じたからだ。

 あの男と出会うまでは。

 二十代になった頃だった。いつものように戦場に出ると自分と年が変わらないように見える男がいた。甲冑は上半身を覆うのみで頭や腕には何も鎧をつけず、左手の薬指に桃色の宝石を加えるような龍の装飾がついた指輪をつけていた。

 クレイは男に決闘を申し込んだ。

 この日のクレイの心には油断と慢心があった。いつもの日常と変わらない、相手を倒して終わりだと。

 だがその日常は崩れ去った。クレイは目の前の男に傷一つつけられなかった。それどころかクレイは傷を負い地面を這いずり回るのがやっとだった。

 男はクレイの命を奪らずに去っていった。自身の部下にもクレイの命を取るようには言わなかった。

「これは決闘だ。相手の命をどうするかはワシが決める」

 そう告げると男は戦場から去っていった。クレイにとってその言葉は屈辱だった。人生で初めての敗北、今まで築き上げたプライドがズタズタにされた。

 それからクレイは人生で初めて勝つために鍛錬した。剣技を極め、魔力を高めた、しかし戦場で男に勝つことはできなかった。

 そして毎回敗北するたびに男はクレイの命を奪おうとはしなかった。

 三十代になったころだった。クレイはあることに気がついた。戦場で会うあの男が歳をとっていないことに。

 クレイはミサハにいた老齢の騎士に尋ねた。なぜあの男は歳をとっていないのかと。

 老齢の騎士はクレイに話した。

「あの男は歳をとらない。私が子供の頃からあの男の見た目は変わっていない」

 それを聞いてクレイは絶望した。

 自分が一番だと思っていた時期もあの男は自分より高みにいたこと。

 あの男と出会わなければクレイは世界で一番強いと自負できていたこと。

 そしてクレイは歳をとり老いてもあの男は歳をとらず自分だけが老いていくこと。

 クレイはそれを認めたくなかった。クレイは生涯を自身の鍛錬に注ぎ続けた。

 だがやはりあの男に戦場で勝つことはできなかった。それどころかクレイの身体は老い初め、剣を振るうだけでも体力が消費されるの感じた。

 そんなある日だった。弓兵がシールの騎士団長を暗殺しようと言い始めたのは。

 クレイは気乗りしなかった。クレイにとって戦場は神聖なものであり、誇りと己の力をみせることこそクレイにとって力の証明だったからだ。

 そして戦場に来たのはクレイが何度も敗北したあの男だった。クレイは弓兵が男を狙うのを見て、不満と少しの安心があった。

 やっとあの男との戦いから離れることができる安心感と、敗北したまま終わる不満があったのだ。

 自分の中の矛盾した気持ちを考えていると弓兵は男の頭を簡単に射抜いて見せた。

 男の最後を見て自分の気持ちに折り合いをつけようとした時だった。

 頭を射抜かれた男はまだ生きていたのだ。それどころか頭に刺さった矢を引き抜くと何事もなかったかのように戦場に突撃してきた。

 しかも男の傷はまるで初めから攻撃を受けていなかったかのように傷が治っていた。

 クレイは唖然とした。自分がどれだけ鍛えてもあの男を殺せない。自分の人生を懸けてもあの男を倒すことはできないからだ。

 だがそれを認めたくはなかった。それを認めてしまったらクレイの誇りと人生は無駄になってしまうからだ。

 クレイは現実を否定するかのように男に戦いを挑み続けた。しかしクレイが男に勝つことはなく、傷一つつけることはできなかった。

 七十代になる頃だった。ミサハとシールが停戦協定を結んだ。シールとの戦争がなくなり、クレイは若い騎士の育成に力を入れるようになった。

 だがクレイの心には大きな穴が空いたようだった。それからの日常は空虚な日々だった。

 最近の物事を忘れ、剣を握るのも体力を使うようになった。まるで自分が少しずつなくなっていくように感じた。

 それから四年後の出来事だった。シールが滅びたと耳にしたのは。

 クレイの心は完全に折れた。結局一度もあの男に勝つことはできなかった。

 自分の人生は無駄だったのだと現実を突きつけられた。

 そんな時、同じ騎士団長の一人から息子を鍛えてほしいと託された。

 クレイはその息子を連れて旅に出ることにした。

 旅の中その子を見ているとかつてがむしゃらに頑張る自分を見ている気持ちになった。

 託された息子はどんどん力をつけ若き自分を超えるほどの剣技と魔力を身につけた。

 しかしそれと同時にクレイの身体はどんどん老い、自分でも何をしているのか、よくわからなくなっていった。

 そして旅に出てから半年、完全にクレイは自分が何者なのかわからなくなってしまった。

 あの男が再び目の前に現れるまでは・・・・・・

 クレイの目の前にあの男が現れた。昔見た姿と変わらないまま。

 クレイの老いた身体に力がみなぎるようだった。

 クレイには目の前の光景がかつての戦場に見えた。 あの男と戦い続けた懐かしき戦場のように・・・

 クレイの心は戦場に置いていかれていた。

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