滅びた王国
エメリアはゆっくりと瞼を開けた。目に最初に映ったのは強固な鉄格子だった。
周りは石の壁でできており、おそらくどこかの地下だろう。
エメリアは両手を縄で縛られており、物も持つことができない。
エメリアはもう一つあることに気づく。鉄格子の外の椅子に腰掛けた男がいることに。
その男はエメリアを攫った男だった。
「お目覚めかい?か弱きレディよ。寝顔もとてもキューティクルだったよ」
「あなた、誰なの?目的はなに?」
エメリアの質問に男はゆっくりと腕を胸にあて頭を下げてお辞儀をする。
「名乗り遅れました。か弱きレディ。私の名はシースルー・アイスノック。シール王国の元騎士団長・・・カレッジたちと同じオリジンシリーズをもった騎士です」
アイスノックは頭を下げると再び椅子に座った。
そしてポケットから朱色の菱形の結晶を取り出した。結晶は手の中に入るほどの大きさで太陽のようにチカチカと光沢を放っていた。
「君には悪いがここで大人しくしていてもらう。カレッジたちと戦うためのエサとしてね」
男は不敵な笑みを浮かべると、手の中の朱色の結晶をくるくると回した。
「その間昔話でもしようか。そうだな・・・シール王国が滅びた話でもな」
「・・・シール王国」
アイスノックは手の中で朱色の結晶を回しながら話し始めた。
「あれは四年前・・・俺たちがいた頃のシール王国は王が代替わりしたばかりだった。その王は前任の王を暗殺し、王位についた。そして国民から搾取する暴君だった」
エメリアは唾を飲みただアイスノックを話を聞く。
「国民の不満が溜まり暴動が起きようとしていた時、王は・・・俺たちシールの騎士に国民を殺すように命令をくだした」
アイスノックの顔はどこか悲しそうな表情を浮かべた。
「俺とカレッジは王国に反旗を翻すことを決めた。そして・・・レゲンやリケイルなどのオリジンシリーズを待つ騎士団長を説得して反旗を翻した」
アイスノックは少し思い出し笑いをするかのように笑みをこぼした。
「その時カレッジとレゲンが揉めてな。カレッジとレゲンが戦って、レゲンを力づくで従わせたんだ」
アイスノックはは嬉々として嬉しそうに話し始めた。
「それからは国民を殺そうとするシール王国の騎士。俺たちの同胞を皆殺しにした。師匠も同胞も・・・あの時の戦いは楽しかったなぁ」
男は楽しそうに話すがエメリアの表情が曇り始めた。
このアイスノックはともかくカレッジやレゲン、リケイルたちが嬉々として仲間を殺すように見えなかったからだ。
「あなたと、カレッジたちは違う!!」
エメリアの言葉にアイスノックは数秒呆気に取られたが、再び笑みをこぼした。
「ふふっ。確かに俺は戦うことが好きだからな。あいつらとは価値観が合わないかもな」
すると足音が近づいてくるのに二人は気がついた。
来たのは顔に火傷をおった男だった。
その顔はエメリアには見覚えがあった。路地でカレッジに燃やされて大火傷をおった男だ。
「アイスノックさんよぉ。その女よこせよ。恨みがあるんだよ・・・楽しみながらなぶり殺してやるからよぉ」
アイスノックは目を細める。その目は氷のように冷たく。まるで獲物を狙う獣のように。
「それは承諾しかねるな。このアイスノックの前で女性に手を出すことは許さん」
火傷をおった盗賊騎士は剣を抜いた。
「所詮用心棒分際で調子のってんじゃねぇえ!!」
火傷をおった盗賊騎士団がアイスノックに切り掛かった。しかしアイスノックは避けようともせずただ椅子に座っていた。
剣を防ごうとも、立ちあがろうともしない。
男の剣がアイスノックに届きそうになった次の瞬間。
ヒュンという風を切る音がした。すると盗賊騎士の男の首がポロッと地面に落ちたのだ。
エメリアは見ていた。アイスノックの持っていた、朱色の結晶が鞭のようにしなり盗賊騎士の首を切断したのを。
ドタっという鈍い音ともに首のない盗賊騎士の体が血溜まりに倒れこんだ。
「か弱きレディに、血を見せてしまい申し訳ない」
エメリアは言葉がでなかった。初めてみる死体とその鼻につく血の匂い、床に転がる生気を感じない虚ろな目をした盗賊騎士の生首を見て気分が悪くなったからだ。
「俺のオリジンシリーズはメタモルフィア、形を与えることで変形させることができる武器だ」
ドタドタと足音が複数聞こえた。
「どうしたんですか?」
先ほどの騒ぎを聞きつけ駆けつけた盗賊騎士たちが部屋に入ってきた。
「仲間に上下関係はちゃんと教えてやれ!!あとレディの前だ。死体もきちんと片付けとけ」
「「「はい」」」
盗賊騎士たちは大量の汗をかきながら震えてに返事をした。
「後そのレディに指一本でも触ってみろ。次はお前たちがそうなる」
盗賊騎士たちは怯え上がり、言葉を失っていた。
エメリアもアイスノックという男の強さと残酷さを目の当たりにし、恐怖を覚えるのだった。