エメリア誘拐事件
暗殺者を倒して一週間が過ぎた。
リケイルは帰ってきてから朝は低血圧のため家で寝ていることが多いが、調子が良い時や夕方になるとエメリアに剣術の指導をしてくれる。
エメリアは剣術や魔法の修行を行いながら、カレッジの傭兵稼業を手伝っていた。
しかし、エメリアはそんな日々を過ごす中ある疑問を持っていた。
シール王国の元騎士たち、カレッジたちがなぜ滅んだ王国から逃げ延び暮らしているかだ。
もし王国が滅びたなら騎士たちが無事なはずがないし、生きているなら刺客などが送られてもおかしくないはずだ。
エメリアはシール王国が滅びた理由なども調べたが原因がわからず、本人たちに聞こうにも本人たちに不快や思いをさせるかもしれないと聞かずにいた。
「はぁ、このままでいいのかな」
町を歩きながらそんなことを考えていると。
「お困りかな美しきレディよ」
馴れ馴れしく、男が話しかけてきた。美形な顔つきにオールバックの髪、赤い瞳がギラギラと輝いていた。おしゃれなのか首に白いスカーフを巻いている。
「いえ、別にお構いなく」
エメリアは男を避け、歩き出そうとしたその時。
「カレッジたちの過去が気になるかな」
「!?」
後ろからの予想外の一言が飛んできた。
「あなた、なにか知ってーー」
エメリアが振り返ると男の人差し指が目の前にあった。するとポチャンと水滴が落ちる音がエメリアの耳元に響き渡る。
すると力が抜けたように、エメリアは膝から崩れ落ちた。
「おっと!!」
すかさず男は倒れないように腕でエメリアを支えた。
「レディよ。強引に攫ってしまうことをお許しください」
男はそのままエメリアを連れ去りどこかに連れていった。
一方その頃カレッジたちは自宅でくつろいでいた。
「先輩・・・なぜあの子にブレイドを譲ろうと思ったのですか?」
レゲンは本を置くとカレッジに問いかけた。カレッジはソファに寝たまま気だるそうに足をゆらゆらとバタつかせる。
「なんだよ。突然・・・」
カレッジはレゲンの方を見ずに両手を頭で組み天井を見つめていた。
「最初はあなたは疲れているのかと思いました。シール王国の責任から逃れたいのかと・・・・・・しかし、あなたはしっかりと面倒をみて鍛えてあげている。正直あなたの考えがわからない」
レゲンの質問に天井を見つめながらもその顔はどこか真剣な顔つきに変わっていた。
「最初は確かに責任から逃れたかった。俺たちが四年前滅ぼしたシール王国の責任から・・・だけど今は・・・」
カレッジが言葉を告げる前ににバンっとドアが勢いよく開いた。
二人とも視線がドアの方向に向いくと、そこにはどこか焦ったような表情を浮かべたレミアがいた。
「大変よ!!エメリアが攫われたわ」
「なに!?」
「なんですって!?」
二人が驚愕し椅子から立ち上がるとレミアは息を整える。
「攫ったのはあんたたちと同じシール王国の元騎士シースルー・アイスノック。今は盗賊騎士団の用心棒をやっているそうよ」
「アイスノックか」
カレッジは少し冷や汗をかくが再びゆっくりと椅子に座った。
「助けにいかないの!?」
焦った様子のレミアにカレッジは淡々と告げる。
「攫ったのがアイスノックで間違いなら、エメリアの安全は百パーセント保証されてる」
「あの人は、女性には危害を加えませんし、加えることも許しませんしね」
カレッジの言葉にレゲンは同調する。二人とも冷静だが顔つきは真剣そのものだ。
「場所はわかりますか。レミアさん」
「盗賊騎士団のアジトの場所はわかってるわよ」
胸元から地図を取り出すレミアを見て、カレッジとレゲンは頷く。
「よし。夜に盗賊騎士団のアジトに突入するぞ!!」
「え?・・・・・・今すぐ行かないの?」
呆気に取られるレミアをよそ目に、カレッジは奥のソファを指差す。
「夜にならないとリケイルが使い物にならないから」
「あうあうあー」
ソファから手を挙げ、聞いてましたよと言いたげにリケイルが気だるそうに手を振っていた。