いくつもの夜をこえて
僅かな希望と誓いを糧にして
月明かりを頼りに闇を彷徨う
幾億もの夜をこえ
孤独の園で君を待つ
シール王国が滅びてから四年後、シール王国跡地。
瓦礫が散乱した王国に人の気配は全くなかった。日が落ち、夜の闇に包またその場所には人々が暮らしていたであろう痕跡と、煤と灰が夜風に飛ばされていた。
そんな王国から少し離れた場所にある丘の上には大きな木があった。まるでシール王国の跡地を見るようにそびえ立つその木の下にはある男と鎧を着た女性が楽しそうに談笑していた。
黒い鎧を身に纏った女性の側には、一際大きな馬がいた。その馬の首はなく、頭がないのに当たり前のように身体を動かしている。
その馬の主人である鎧を着た女性も首から上が存在しなかった。だが何も問題がないかのように、身体を動かし、目の前に座る男と楽しそうに話している。
(しかし、久しいなレット。三百年ぶりか)
「あぁ正確には三百四年だがな。悪魔との戦い以来だなデュラン」
デュランと楽しそうに話す男は少し顔に皺ができており、三十代半ばといった外見に見え、銀髪の髪がよく似合う中年のような印象を与える。
左手の薬指にはまった指輪につけた桃色の宝石が月明かりにあたり、煌めいていた。
「今までどこにいたんだ?デュラン」
(この世界を見て回っていた。ハンダルと共にな・・・・・・ニュイ様が守ったこの世界を見たくなったのさ)
「・・・・・・フフッ。長い旅だったな」
(まぁな・・・・・・ところでお前こそ何していたのだ。ルミナスと作った国も滅びてよかったのか?)
デュランの言葉にレットは持っている酒の瓶をラッパ飲みすると鼻で笑って見せた。
「いいんだ。民なき国に未来はない・・・・・・ルミナスとの誓いも守ったし、ほかの騎士団長も同じ意見だったからな」
(・・・・・・そうか)
酒を飲み顔を赤くするレットだったが、どこか名残惜しそうでもあり、必死に酒で自身の気持ちを押し流そうとしているようにも見えた。
デュランは瓦礫の山となったシール王国に身体を向けるが、そこにあるのは繁栄という欲望の闇に飲まれた夢の跡地がただ静かに広がっているだけだった。
(そういえば、ルーラでブレイドを使っている男と会ったぞ)
デュランの言葉にレットの手が止まった。
(恐らく奴が最後のシールの騎士か。名前を聞き忘れたが)
「カレッジ・・・・・・だな」
(なんだ知り合いだったか)
「あぁ・・・・・・一緒にシールを滅ぼした。共犯さ」
(そうか・・・・・・魔物と戦ってたが、お前の指示か?)
「さぁな知らん。四年前に別れたきりだからな」
(そうか・・・・・・お前も気づいているだろう。魔物の気配を最近感じる。悪魔の仕業かもしれん)
「あぁミサハの方でな・・・・・・誰かが悪魔を復活させようとしてるのかもな」
レットは酒を飲み終え立ち上がると、デュランとシール王国に背を向け歩き出した。
(どこにいくんだ?)
「魔物の調査と久しぶりに共犯に会いにな」
レットはゆっくりとした足取りで夜風に揺られながら歩き出すとデュランも立ち上がった。
(最後に聞きたい。なぜ、ニュイ様のことと悪魔のことを皆に話さなかった)
デュランの言葉にレットの足が止まった。
(シール王国の名を広めるためには十分な逸話となったはずだ。なのになぜだ?)
デュランの言葉にレットは背を向けたまま、指を二本立てて見せた。
「一つは悪魔と魔物の話をして、悪魔たちを蘇らせる輩を出したくなかったから」
話終えると指を一つ折って見せた。そして、夜風が草を揺らす音が止むともにもう一つの指を折った。
「もう一つはニュイを静かに眠らせてやりたかった。せっかく眠れたニュイを起こしたくなかった・・・・・・それだけだ」
レットは言葉を終えると、再び歩みを進め始めた。夜の闇に溶けるように消えていったレットを見届けるとデュランもハンダルに跨りどこかに旅立っていった。
その場に残された物は何もなく、夜の冷たさと静寂に包まれた滅びた王国と、月明かりが優しく辺りを照らすだけだった。




