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優しい二人

家に帰ると僕は母さん、いや、僕のことを疎んでいるのに僕から母さんなんて呼ばれたら嫌だよな。うん。そうだな。名前で呼ぼう。


僕は志那さんが帰ってきていないか家の中を探した。でもどこにもいない。まだ仕事してるんだろうな。


そう思った僕は自室に戻った。その手にはゴミ袋が握られていた。幼馴染の彼女も僕が部屋に彼女から貰ったプレゼントを置いているなんて聞いたらいい気にならないよな。それに幼馴染と付き合っている先輩にも悪い。彼女からのプレゼントは綺麗さっぱり捨てなければ。


僕はそう思って持っていたゴミ袋をおもむろに広げその中に次々と彼女から貰ったプレゼント放り込んでいった。


そんなことをすれば心が痛む。僕は直前までそう思っていた。でも実際は何も感じなかった。本当に一体どうしてしまったのだろう?何か大事なものが壊れてしまったような、そんな気がする。でもこっちの方が気が楽だ。なんだか今まで重く捉えていたことが馬鹿らしくなる。


僕は誰からも好かれることは無い。それはこれまでのことで分かっている。そしてこれからも誰かから好かれることはない。


そう考えてしまえば今まで誰かから好かれたくて期待していた自分が滑稽に写った。僕は誰にも期待してはいけない。全ては自分でやるべきことだ。


そうだよな。今考えれば志那さんから愛情を受けたいなんて考えること自体僕は現実が見えていなかった。


だって志那さんは僕の誕生日すら覚えていなかったんだから。僕の誕生日、僕は志那さんが帰ってきてくれるのを心待ちにしていた。でもどれだけ待っても志那さんは仕事から帰ってきてくれなかった。小さかった僕は眠くなってしまって結局寝てしまった。僕は家族から誕生日を祝われなかったんだ。


今冷静に考えてみれば当たり前だよね。志那さんは僕のことを疎んでいるんだから。


でもやっぱり姉さん、いや姉さんにも憎まれているのだから姉さん呼びは良くないな…うん、花梨さんと呼ぼう!


花梨さんにはどうして憎まれているのか分からない。生理的に無理と言うことだろうか?それならそれで仕方ない。


そうして部屋の片付けをしていると玄関の扉が開く音がした。


僕は玄関に向かう。するとそこには志那さんと花梨さんが楽しそうに話しながら帰ってきていた。


やっぱり僕はこの家族にいない方が良さそうだ。


「おかえりなさい。志那さん、花梨さん」


「えぇ、ただいま…え?叶人?どうして名前で…」


「帰ってきて早々で悪いのですが、少しお話を聞いて貰えますか?」


嫌いな僕に馴れ馴れしくタメ口で話されても不快感が募るだけだろう。


「そ、それはいいのだけど…それにどうして敬語で…」


「ありがとうございます」


そう言った僕は両膝を地面に付け、そして頭を下げた。


「ちょ、ちょっと叶人?!一体どうしたの?!」


「な、何してんのよあんた!」


「お願いします。高校を卒業したらこの家から出ていきます。なのでどうか高校卒業まではこの家で生活させて頂けませんでしょうか?もちろん自分のことは自分でします。お願いします」


僕はそう言った。自分のことは自分でしますよ?二人もそれを望むだろうしね。嫌いな僕に洗濯物を洗ったりご飯を作ってもらいたいわけないもんね。


「な、何言ってるの?!ここはあなたの家なのよ?何時までもいていいのよ?」


なんと優しいのだろう。嫌いな僕にも家族と言うだけでそこまで優しくしてくれるなんて。でもその優しさに甘えてはいけない。そして勘違いをしてもいけない。僕は嫌われている。それをもう疑うことは無い。


「志那さんに疎まれていることは分かっています。花梨さんに憎まれていることも知っています。でもどうか高校の間だけは…お願いします」


いくら自分のことは自分でしなければならないと言っても今の僕はただの子供だ。自分で稼げる訳では無いし住む場所すらない。だから高校卒業をしたら自分で働いて自分で生きていく。それまではここにいさせて貰いたい。


「な、何言ってるの!?私が叶人を疎んでいるなんてそんなこと!」


「そ、そうよ!私だって…その…」


僕に気を使わさせないように配慮してくれているのか!二人はなんて優しいんだろう…僕さえ居なければ完璧な家族だっただろうに…


「気を使って頂かなくて結構です。僕は自分がどう思われているかはちゃんと分かっているので」


「あ、あなたはこの家の家族なのよ!好きなだけいていいのよ!?」


「な、なんでいきなりそんなこと言い出すのよ!あ、あんたが悪いことなんてひとつもない!」


どうやら高校卒業まではここに居てもいいみたいだ。良かった。


「お気遣いありがとうございます。それでは僕は自分の部屋に戻りますね」


そう言って僕は自分の部屋に向かった。

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