死者の円卓 〜死んだ敵組織幹部か死に様を語る〜
本編のネタバレにはなりますが、どうぞ。
ここは地獄。罪を犯した者が死後に送られる世界。そんな地獄に、ある女がまた送られてきた。彼女は癖のあるアッシュブラウンの長髪が特徴的な眼鏡の女。カナリス・ルートの構成員、ロムだ。
彼女は地獄の門を通り、かつての同志と再び顔を合わせるのだった。
かつての同志たちは――円卓を囲み、酒と食事をつまみながら談笑していた。そう、己の最期について。
ロムが見た時には昴が発言していた。
「にしても、俺は最高の死を遂げられたぜ。何せ殺してほしかった晃真に焼かれて死んだ。焼死だ……! しかもただの炎ではなく晃真の能力だ……! 嫌っていても最高の死はプレゼントしてくれたらしい!」
ロムは昴の発言に眉根を寄せる。まさかカナリス・ルートの守護者だった男が弟に殺されたがるとは誰が思おうか。
次に発言したのはクラウディオだ。
「死の瞬間の満足度なら俺も負けてねえよ。俺はオリヴィアの中に幼女……昔のオリヴィアの面影を見た。あれは女神だったし、戦いをアレと置き換えるなら実質幼女とアレしたことになる」
「全く……どうしてあなたは自重しないの。そんなんだからオリヴィアに嫌われるの」
ロムはつい突っ込んでしまった。
「まさか。オリヴィアが俺を嫌うわけねえだろ」
と、クラウディオ。
続いてリュカが口を開く。
「ボクはまあ、パメラに会えたから死んで満足かなー。やり残したことがあるとはいえ、ある意味よかったかも」
リュカは昔、初恋の相手を亡くして引きずっている。だから女装しているのだが、今のリュカは憑き物が落ちたようだ。もしかすると地獄で女装姿を見ることもなくなるのかもしれない。
「私は可愛い女の子に囲まれて逝けたから満足よ」
「戦て死ねたなら、まあ」
リュカの次にはエレイン。さらに麗華。
「……オリヴィア・ストラウスの覚醒。あれは見ものだったわ。金髪の女の子が黒髪赤眼に変わる様子。とても……興奮したわ」
エレインは続けた。
「ずるいね、エレイン。私もそのオリヴィアと戦いたかたね」
「タイミングの問題よ。もし暁城塞にいれば、あなたもその最期を迎えられたかもしれないわ」
少し不満げな麗華に向けてエレインは言う。
やはり、戦いの質はタイミングがかかわってくる。
「モーゼスはどうだよ、自分の死について」
昴はモーゼスに話を振った。彼はカナリス・ルートで最初死者。最も長く地獄にいる。
「ダンピールに殺されて不快だったよ。殺される瞬間は。だが、死んで見れば悪くない。よく私を攻撃できたなとさえ」
と、モーゼスは言った。彼もまた死後に憑き物が落ちたようだ。
次に、ハリソン。
「私は殉教できて満足です。後継者も指名できましたからね」
ハリソンはどこか遠いところを見ているよう。事実、ハリソンは自身の後継者に思いを馳せていた。だが。
「その後継者、死んだわよ」
と、ロム。
ハリソンの後継者ランディは、ハリソンの知らないところで殺された。だからハリソンは確認する。
「ランディは死んだのですか……」
「そうよ。オリジナルのランディは逃亡したわ」
ロムが言うとハリソンは眉間にしわを寄せた。
「せっかく殉教したというのに……すこし、懺悔してきます」
と言って、ハリソンは席を外す。
そんな中、無言を貫く男に向けてロムは言った。
「あなたは自身の死についてどう思うのよ、タスファイ」
「ああ……」
と、タスファイは自身の死のことを思い出す。そして。
「戦士として戦って死ねたことを誇りに思う」
タスファイは答えた。
すると昴が反応する。
「うおっ、まさに武人だな。すげえよ。同じルーツとは思えねえ」
実は、昴とタスファイは同じルーツを持つ人間だ。どちらも藍色の髪に瑠璃色の瞳。いずれも高い戦闘センスを持つが、昴――鳥亡一族は元となった氏族が鳥亡村に残り、続いてきた。一方でタスファイはといえば、その先祖が鳥亡村から南下して南部に定着した。鳥亡村では「南進派」と呼ばれる一族だ。
「南進派は戦士の誇りを捨てない一族だ。いや、そもそもルーツから誇り高き一族ではないのか」
と、タスファイ。
「あー、なんかすまねえな」
昴は煮え切らなかった。
さて、死亡したはずなのにここにいない者がいる。ヨーランだ。それに気付いたのはタスファイ。
「ヨーランはどこだ?」
タスファイは言った。
「どこだろうな? あいつ、根は善人だから天国にでもいるんじゃねえか?」
と、クラウディオ。
ここにいる全員はヨーランが天国にいると考えていた。
……ヨーランの事実を知る者は誰もいない。
本編読んでない方は墨崎のページから本編「ダンピールは血の味の記憶を持つか」を読んでみて下さい!