表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

8 後始末とやらかし

 さて、なんのかんのあってウェイウェイの野郎をぶちのめしてやらなければならなくなったわけだが、そう簡単に事が運ぶわけではない。


 当面の問題は拠点に詰めていた大量のウェイウーの一族共だ。当たり前だが人という生き物は生きているだけで食糧が必要となる。言いたくは無いが、食わせるのが嫌なら殺してしまうのが最もお手軽だ。

 しかし、そうすれば禍根が残る。手を結ぶことも距離を取ることも不可能になる。だが、奴らを養っていくつもりもない。そこで、いくらかの捕虜を残し、大部分の兵士にはお帰り願うことにした。ウェイウー川の神へと伝言を頼んで。


 伝言の内容は大まかに言えば以下の通りである。


 まず、休戦の提案である。奴が乗ってくるかどうかはともかく、こちらから積極的に仕掛けることはしない。何せルオールの一族はいくつもの村が破壊され、ボロボロの状態である。これ以上、被害は出したくない。


 次に、こちらの被害の保証を求める。食糧、技術、特産品、あるいは人的補償として女を求める。


 いや、違うぞ……?


  俺が女好きだから言っているのではない。単純に人が減ったから補填してもらうのだ。

 ここで男を寄越されれば、そいつは確実にスパイか鉄砲玉である。女だって怪しいが、ウェイウーの男を受け入れるよりは易しいだろう。

 やってくる女には針の筵だろうが、我が神名に誓って無体な真似はしない、させない。俺は紳士な神様だからな!


 最後に、不可侵条約の締結である。というか、本音を言えば本当は第一の氏族とやらを目指すのをやめてもらいたい。最低でも、そんなことは他所でやって欲しい。

 詳しく聞いたところ、神さえいなければ各氏族の力関係はどっこいどっこいである。ならばいかにウェイウェイといえども、他の氏族を征服している間に時間は稼げる。

 俺がいる以上、奴とて本拠地を留守にすることはできないからだ。自分が遠出をして他の一族を滅ぼしている間に、自分の一族が滅ぼされていました、なんて笑い話にもならない。

 となれば、奴は神の力で一気に征服する戦略はとれないだろう。その間に、こちらも策を練り、力を蓄えることができる。


 うむ、完璧なプランである! もちろん、奴が乗ってきてくれればの話であるが……。


 最悪の展開は、邪魔をされたウェイウー川の神が怒って攻めてくること。そして俺が手も足も出ずにやられてしまうことだな……。

 全ては俺の肩にかかっている。俺、竜だから肩無いけど。荷が重く、気が重い。嫌だなぁ……。何で戦うって言っちゃったんだろう。ああ、女たちにお願いされてしまい、安請け合いをしたからか……。自業自得である……。


 一夜明け、ウェイウーの一族を送り返し、俺たちは村に戻る。滅ぼされた村の人々は、多くがそのまま奴らが作っていた拠点に残った。集められた食糧もあるし、元々の村は壊滅状態だからだ。何人かの者たちや捕虜とした連中は連れ戻るが、当面はあの拠点を活用するしかあるまい。

 これからなんとか逃げ延びた人々を連れ戻し、村を復興させてやらねばならない。奴らが俺の提案をのまなかった場合に備えて、戦の準備も必要だ。やれやれ、休まるときがないな……。


「おーい! 戻ったぞー!」


 前を歩いていたグンターが村へと駆けていく。竪穴式住居の陰から恐々と覗いていた村の人々は、俺たちの様子を見て無事に事が済んだのを悟り、嬉しそうにこちらへと駆け寄ってくる。


「無事で良かった……!」

「良くやってくれた……!」

「いや、俺たちは何も……」

「誰も欠けていないのだな……!?」

「ルオール様、ありがとうございます……!」


 女たちが自分の男を抱きしめたり、老人たちが若人の労を労ったり、子供たちが父親の足元にへばり付いたりする。泣きながら俺に感謝を伝えてくる者もいる。


「お疲れ様でした、ルオール様。何とお礼を言って良いやら……」


 一番に駆けていったグンターから報告を受けたのだろう、長老が話しかけてくる。実際、俺は疲れるほどのことはしていないのだが、悪くない気分だ。この者たちが喜ぶ姿は、きっと万病に効く。


「うむ。しかしまだ全てが終わったわけではない。当面の危機が去っただけだ。可能であれば、酒の一つでも捧げてもらえれば我は満足である」

「ははっ! 必ずや献じさせて頂きます!」


 ちゃっかりとしてみた要求に、長老はいつものように両手を組んで頭上に掲げるポーズで恭しく答えた。おお、言ってみるものだな。初めの頃に捧げられた馳走にはそれらしいものがなかったが、ちゃんとこの時代にも酒はあるらしい。

 まあ、醸造酒なんかを作る技術はないだろうから、そんなに期待はしていない。ただ、この村では米を栽培しているようである。穀物は他に粟や麦があり、当然、果実や川魚、獣なども食す。意外と食生活は豊かに見えるな。


 俺がまだ見ぬ捧げ物にワクワクしていると、遠くから駆け寄ってくる人物が一人。


 ジーナである。恐らく彼女は俺の神殿に籠り、祈りを捧げてくれていたのだろう。村を立つとき、別れ際にそんなことを言っていた。

 おお! 俺の愛しい「最も美しく最も清らかな娘」よ! 我は今帰ったぞ! その少々寂しいが柔らかい身体でこの俺の竜の身体を抱き締めておくれ!


 大喜びで彼女を待つが、しかし、ジーナは俺の前までやってくると、表情を固くして立ち止まった。おや? 一体どうしたことだろうか。


「ル、ルオール様……。お帰りなさいませ……」

「お、おお……。今帰ったぞ、ジーナよ……。ど、どうかしたか? その、何だか顔が恐ろしいのだが……。い、いつものようにニッコリと微笑んではくれないのか……?」


 俺が戸惑いながら聞いてみると、ジーナは言った通りにニッコリと微笑んでくれる。だが、怖い。笑っているのに、なぜだがとても恐ろしい。背中では炎が燃え上がり、ゴゴゴゴと不穏な音が聞こえてくる気がする。な、なんだ…? ジーナは何に怒っているんだ……!?


 ふと我を省みると、ジーナの圧に怯えたのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 あっ……。これ、やらかしたわ……。


 ジーナが笑顔を張り付けたまま、低い声で俺に告げる。


「お住まいは万事整えてございますので、お好きにお戻り下さい。私は今夜は実家に戻らせて頂きますので……!」

「ま、待てジーナ! こ、これは違うのだ! こやつらはウェイウーの一族に捕まっていた哀れな女たちでな!? あの場所に留まりたくないと着いてきてしまったのだ!」


 ジーナの「実家に帰ります宣言」に、慌てて弁明する。そうなんです、仕方がなかったんです! 震えながら、どうしても着いてきたいという女を振り払うなんて、そんな無体な真似ができようか!? いや、できるはずがない!!(反語)


「なにも違うことなど、ありはしないではないですか。ええ、ええ。ジーナは存じておりますよ。ルオール様は女にお優しくあらせられますから? その者たちも優しく愛でられたのでしょう?

 ええ、ええ。ルオール様がどれほどお優しいか、他でもないこのジーナが一番良く知っておりますとも。 私が心配で心配で一晩中祈りを捧げている間、ルオール様は他の女に夢中だったのですねとか、一切思っておりませんから。

 所詮私は捧げ物の一つですから? 飽きたらポイで構いませんから……!」


 ひぇっ……! ジーナの背後に般若が見える。俺は女たちの間をするりと抜け出し、ジーナに擦り寄る。


「そ、そそそ、そんなことを言うな! ジーナが一番だ。な? な? 我は他でもないお前のために働いてきたのだ! 機嫌を直しておくれ……!」


 ぐるりと巻きつき、哀れなペットのように主人の機嫌をとる。連れてきた女たちや、村の者たちがぽかーんとした顔でこちらを見ている。ええい! 見せ物ではないぞ! 散れ! 散れい……!!


 結局、俺は小一時間謝り倒して、何とかジーナに機嫌を直してもらうことに成功したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ