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1 流れ始める

 轟々と音を立て、茶色く濁った川の水が全てを押し流す。岩も木も、車も家も橋すらも押し流して、それでも勢いは止まらない。二階からそれを眺めている。築100年を越える先祖代々のボロ家。最早住む者は俺一人。こんな家とっとと出ていけば良かったなと後悔するも時既に遅し。

 家の前を通っていた筈の道は跡形も無い。裏山から嫌な音が聞こえて来る。山と川に挟まれた我が家。土砂崩れで生き埋めになって死ぬか、家ごと川に流されて死ぬか、さてどちらだろうな。先週から降り続く豪雨は、未だ止む気配すら見せない。


 地響きが聞こえて来る。下からドンッ!と大きな衝撃。文字通り家ごと揺さぶられて立っていられない。床が斜めになり、本棚が倒れ込んでくる。いや、これは家が斜めになっているのだ。

 こうして俺は、幼い頃より慣れ親しんだ山と川と、そして家に押し潰され、押し流され、その生涯を終える事になった。


 それから、長い長い夢を見た。楽しいとは言えない、けれど退屈とも言えない、長い長い夢だ。それは地理の授業で見たことがあるような、一本の川の流れが形成される過程を眺めるような夢だった。

 始めは細い細い流れだった。山の奥深くから湧き出でて、いくつもの流れが一束となり、やがて川と呼べるようになる。山を削り地を削り、谷を深くしてその底を這う。流れは時に強くなり、弱くなり、細くなり、太くなる。

 川底を削り続けて滝となることもあれば、流れを止めて湖となることもあった。押し流した土は山裾を広げ、肥沃な泥を地や海へと運ぶ。そうして育まれた土壌に、生命の息吹が宿る。彼らは川の流れで喉を潤し、生きる糧を得る。


 ずっとずっと、その流れを眺めていた。その夢は再現VTRのように早回しはしてくれず、何万年という時をただ流れを眺めて過ごした。時間の感覚は無くなり、川と一体となる。俺はただそこに在り、ただそれだけだったーーー。

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