お好みのスタイルで
私はタイミングっていうものに関して、とにかく運がないなぁ――なんて、ふと思った。
お姉ちゃんと喧嘩した時もそうだ。
なんとかかんとか機を伺って謝ろうと思った矢先に、お姉ちゃんの転勤と私のラヴェルへの引っ越しが決まって、結局そのまま有耶無耶になってしまった。
お姉ちゃんに会って仲直りできたのは、つい先日。
実に数年越しのタイムラグだ。
お姉ちゃんとのことを抜きにしても、自分の間の悪さが嫌になるエピソードなんて、いくらでもある。
やっと時間が出来ていきたかったお店に行ったら、臨時休業で閉まっていたり。
部屋のチャイムが鳴るときは、毎回狙いすましたみたいにシャワー中の時だ。
タイミングの神様みたいな偉い存在がいて、それが人間の行動を運命的なアレで決めてるとしたら、随分と底意地の悪い暇人だろうな、と思う。
神様は、特に今日は意地が悪いらしい。
きっとこの場面を見て、歯を見せるにやけ面をしてるに違いない。
目の前の二人を見て、私はそう思わざるを得なかった。
「それで、何をやってらっしゃったんですか、ニッパーさん?」
トゲトゲとした口調で、偶然会ったミモリちゃんはそんなことを、ニッパーさんに言っていた。
なんだかすごく敵意むき出しだけど、ニッパーさん、ミモリちゃんになんかやったんだろうか。
――ていうか、知り合いだったんだ。いつの間に。
「……どちら様でしたっけ?」
「えぇ、あれェ?」
違うのかもしれない。
ニッパーさんに聞かれた私は、思わずそんな素っ頓狂な声を出してしまった。
ああ、ほら、ミモリちゃんもスゴイびっくりした顔してる。
「は、はぁ!? ふざけないでください、前に話したじゃないですか!」
「ああ……それは、その、失礼した」
「うぬぬ……! しかもまた懲りずに、ウルフ隊にちょっかいをかけてるみたいですね!」
スゴイなニッパーさん、恐ろしいくらい目の敵にされてる。
ミモリちゃんとどんな確執があるのかは知らないけれど、多分この人の、暖簾に腕押しな態度が余計悪化させてるんだろうことは、想像に難くない。
そこだけは、ちょっと彼女の気持ちがわかってしまう。
「ちょっとミモリ」
と、そんなことを考えていると、後ろで様子を見ていたエリサさんが、ミモリちゃんを呼んだ。
「はい、何でしょうエリサ様!」
それに対してミモリちゃんは、まるで犬みたいに――失礼だけども、本当にそうとしか形容できないくらい犬みたいだった――勢いよくエリサさんに振り向いた。
エリサさんはしょうがない、といったため息をついて、続ける。
「あんまり公衆の面前で声を荒げない。フェアリィとしての品格が下がるわよ?」
「も、申し訳ございません……し、しかし、この男がまた懲りずにレイ様と……」
「……アナタたち」
そう言って、エリサさんは私たちのほうに目を向ける。
「ご、ご無沙汰してます、エリサさん……珍しい組み合わせですね」
「さっきそこで偶然会ってね――それはそうと、前は厳しいことを言って、悪かったわね」
「い、いいえ……結局、言う通りでしたし」
「それも考え物だけどね。今後も死なないように、精々がんばりなさいな」
「はい……」
正直、私はこの人が苦手だ。
悪い人では決してないんだけど、なんとなく、雰囲気がちょっと怖いと思ってしまう。
吊り上がった目と、ナナさん以上に厳格なその性格で、そう感じてしまうのかもしれない。
「ところで、その――ちょっと聞きたいんだけど、いいかしら?」
と、エリサさんはこっちに近づいて、聞いてきた。
どこか内緒の話でもするように、口の横に手を当てている。
なんだろう、と考えていると、どこか言いにくそうにしている。
もじもじしている、とも取れる。なんだかエリサさんがこんな態度なのは、凄くレアかもしれない、なんて思った。
そんな風にして、彼女は淀みながらも続けた。
「あ、アナタと……たしか、ニッパーよね? ――その、やっぱり、そういう関係なのかしら?」
そういう関係。
それが意味するものが何かを考えて、数秒……。
ニッパーさんと二人きりで買い物、服を試着して見てもらってる最中。
ここから導き出される、『そういう関係』――え?
「は、はい!? 何言ってるんですか!?」
言葉の意味を察した私は、思わずそんなことを言ってしまった。
「え、違うの? 仲良さそうだったから、てっきり――」
「違いますよ! ナナさんたちも一緒だけど、はぐれただけなんです!」
「……いいえ、油断してはいけませんよ、レイ様」
エリサさんに対して弁明をしていると、横からミモリちゃんがそんなことを言ってきた。
油断って何の話だ、と思っていると、彼女は勢いよくニッパーさんを指さした。
ニッパーさんはずっと状況が飲み込めてないみたいで、終始きょとんとしている。
「この男、少しでも隙を見せるとすぐにレイ様の懐に入り込んで、手を出すつもりなのは間違いありません! ナナ様はもう、その餌食にッ……!」
「ナナさん? ナナさんがどうかしたの?」
「ご存じないんですね……ナナ様は時既に遅く、この男に誑かされ、恋仲にまでッ……」
「は? え、どういうことですか? ニッパーさん」
ミモリちゃんの言葉の意味を考える前に、私はすかさずニッパーさんにそう聞いた。
付き合ってる? ニッパーさんと、ナナさんが?
自分で思っていたよりも低い声が出てしまったけれど、今はそんなことはどうでもいい。
事実確認が何より先決だ。
「えぇ、こわ……」
なにやらエリサさんが言ってるが、気にしてられない。
「……すまない、俺も全く理解できん」
と、本当にキョトンとした顔でニッパーさんは言った。
「嘘つかないでください! この見えてる地雷男! 女殴ってそうな顔のくせに!」
すると、ミモリちゃんはそんな風に捲し立てだした。
何て言い草だろう。
まあ、否定できないかもしれない。
ニッパーさん、見た目だけならその評価になってもおかしくない、かも。
「地雷は埋めて隠したほうが効果的だ。歩兵の経験がないから、一概には言えないが」
ニッパーさんはニッパーさんで、めちゃくちゃにズレたことを言ってるし。
けれど、このおかげで頭を冷やすことが出来で、なんとなく察することが出来た。
つまり、ああなるほど、ミモリちゃんの、いつものやつだろう。
この子の思い込みが激しいのは今に始まった話じゃない。
私も以前、知らない間にリリアさんと付き合ってることにされたことがあるし。
あの時は大変だった。
学校に行ったらその話題で持ちきりだし、リリアさん好きの人たちに恐ろしく詰められたし。
当のリリアさんも似たような状況だったみたいで、任務で会うたびにゲンナリ度が増していた。
結局、ナナさんがミモリちゃんにお説教して、騒ぎは収束した。
思い出したくない思い出だ。
そもそもにして、ニッパーさんがそんな風に誰彼構わず手を出すような男だったら、私はこんな苦労をしていないのだ。
いっそのこと、ミモリちゃんの思い込み通りの人だったら良かったのに、なんて。
だって、もしニッパーさんがそうだったら、私にだってもう少し。
もう少し……。
「……はぁ」
自分の現状を思い出して、私はまたブルーな気分になってしまった。
ミモリちゃんとニッパーさんは、まだ何か言い争ってるみたいだけど、内容は頭に入ってこなかった。
今この時だって、ニッパーさんの顔は、受け答えしつつもどこか上の空だ。
この人が真剣な目をするときは、決まっている。
ライカちゃんに乗ってるとき。
ライカちゃんの整備をしてるとき。
ライカちゃんの話をしてるとき。
ライカちゃん、ライカちゃん、ライカちゃん。
ついさっきだって、そうだ。
まるで興味がなさそうだったのに、彼女の話題を出したとたん、生気が戻ったみたいになっちゃって。
ひょっとして私、凄く虚しいことをしているんじゃないだろうか。
「……ねえ、レイ」
そんなことを考えて俯いていると、何やらエリサさんが近づいて、私を呼んだ。
「はい?」
「その服は、あそこにいるニッパーに選んでもらったの?」
「まさか……自分で選んで、似合うか聞いてたんです」
「へえ、彼はなんて?」
「まだ聞けてません」
すると、エリサさんはどこかバツの悪そうな顔をした。
「その、不調法を働いたわね……なんだか、だいぶ間が悪い時に来てしまったみたい。ごめんなさい」
と、彼女は私に頭を下げてきた。
正直面食らった。
この人に頭を下げられる日が来るなんて、考えたこともなかったから。
「い、いえ、いいんです。どうせ……」
そこまで言って、私はその先の言葉が出てこなかった。
どうせ?
どうせ、なんだろう。わからない。
ただ身勝手ながら、言いようのない惨めな気分になってるのだけは、確かだ。
「……一つ聞いていいかしら?」
言いあぐねていると、しびれを切らしたのか、エリサさんはそう聞いてきた。
なんだか嫌に真面目な顔をしていたもので、そんな心当たりも全くないのに、私は怒られるような気がして、思わず身構える。
「な、なんでしょう?」
「彼に見せたのは、その一着だけかしら?」
「へ? いえ、その前に一個二個くらい……」
「なるほど。わかったわ、ありがとう」
それだけ言って、エリサさんは言い合っている二人の元へと近づいて行った。
なんでそんなことを、聞いてきたんだろうか?
いや、別にいいか。
どっちにしろ、それを考えれる余裕は、今の私にはない。
「はぁ……」
思わず、そんなため息が漏れる。
それと同時に、携帯の通知が鳴った。
少し八つ当たり気味に、乱雑にそれを取り出す。
ナナさんからメッセージだ。
『もうすぐ着く。そっちはまだかかりそう?』
どうやら、思っていた以上に時間が経過してしまっていたようだ。
『すいません、すぐ行きます』とだけメッセージを打って、携帯をしまった。
なんだか、ひどく惨敗したような気分だ。
……もういいや、早く着替えて、ナナさんたちと合流しよう。
まだ話している他の3人をしり目に、一人でポツンとしていた私は、そのまま試着室の奥に引っ込んだ。
急いで着替えを終え、元の服に戻ったところで、試着室を出た。
すると、ニッパーさんたちも気づいたようで、私を見るなり話しを中断した。
「もういいのか?」
と、ニッパーさんは近づいて聞いてきた。
「ナナさんたちもうすぐ着くみたいなんで、もう行きましょう」
彼の方向を見ずに、試着した服をそれ用のラックにかけながら、冷たく、そっけなく言った。
「そうか」
あからさまに不機嫌な態度を取っても、彼はそれでも全く気にしていない。
それどころか気づいてもいないようで、それだけ答えた。
それが一層、自分のやったことに罪悪感を抱かせる。
私って自分で思ってたよりも、面倒臭くていやな女なのかもしれない。
それでも、自己嫌悪を加速させながらも、私は今は、その行動を改める余裕がなかった。
彼の顔を見たら、泣きそうになるから。
「レイ、ニッパー」
すると、エリサさんが私たちに声をかけてきた。
「私たちはもう行くわ。お邪魔してごめんなさい、ごきげんよう」
「あ、はい……お疲れ様です」
別れを告げられたので、とっさにそう答える。
「ま、待ってくださいエリサ様! 私まだレイ様とお話しした――」
「いいから行くわよ!」
ミモリちゃんを諫めながら彼女は、こちらに手を振って踵を返した。
「ニッパーも、ちゃんとやるのよ」
「了解」
別れ際、エリサさんとニッパーさんはそんな言葉を交わした。
何の話かは分からないが、どうせ戦闘関連のことだろうと思い、深く考えないことにした。
「……じゃあ、私たちも行きましょうか」
隣にいるニッパーさんに、私はそれだけ言った。
まだ、彼の顔を見ることが出来ない。
「その前に、少しいいか?」
と、ニッパーさんはそう言ってきた。
『了解』とって言われると思っていたので、その言葉が以外で、私は思わず、彼の方を向いた。
彼の顔は、いつもの通り無表情で、無機質で。
いつものニッパーさんだ。
「どうしました?」
「少しだけ用がある。すぐ終わるから、店の前で待っててくれないか?」
「はぁ、いいですけど……」
何だろう、お手洗いでも行きたいのだろうか?
まあ、すぐ終わると言うなら、別段断る理由もないかな。
「じゃあ、入り口で待ってますね」
「すまない、すぐ済ませる」
そう言って、彼は足早にその場を去った。
私もそれに倣って、お店から出ることにする。
入り口に向かう道中、いろいろな人たちの顔が、目に入った。
その中で、一組のカップルが、私たちと同じように試着室の前で話しているのが見えた。
仲睦まじそうに、彼氏らしき人が、彼女が試着している服を見て、あれやこれやと注文を付けている。
彼女さんの方も、『好みがうるさいんだから』なんて言いながら、内心楽しんでいるのが、顔から察せられた。
それを見てると、大げさな表現だけど、なんだか世界から取り残された気分になった。
……いや、大げさなことはないかもしれない。
その通りなんじゃないだろうか。
だって、ニッパーさんの世界に、きっと私はいないのだ。
今日、その事実をありありと打ち付けられた。
「あ……」
気づけば、店の入り口に立っていた。
入る人の邪魔にならないように、端に移動する。
俯いて、数十秒ほど。
ニッパーさんが来るまで、私は人の波をぼうっと見ていた。
「何やってんだろう、私……」
勝手によくわからない期待をして、そして予想と違ったからって言って、勝手に裏切られた気になって。
それであの人に、ほとんど八つ当たりするようなことして。
自分勝手この上ないと思う。
でもそれでも、期待してしまったのだ。
あの人が、ライカちゃんへの思いの、ほんのつめ先程度でも、自分に向けてくれることを。
そんな可能性は無いに等しいのに。
でも、期待してしまったのだ。
だって、私は――。
「……やめよ」
それだけ呟いて、考えるのをやめた。
気張りすぎて疲れたし、ナナさんと合流した後のことを考えよう。
……お姉ちゃんには悪いけど、彼にライカちゃん以外に興味を持たせることは、諦めようと思った。
無理だ。少なくとも、私には、もう。
これ以上は、自分が惨めになるだけだ。
だったらもう、全部諦めよう。
それで、終わりだ。
「桂木」
と、前から声がした。
顔を上げる。
すると、ニッパーさんがいた。
「待たせたな」
「いいえ、大丈夫ですよ。じゃあ――」
行きましょう――といおうとした途端、彼は何かを、私の前に差し出した。
紙袋だ。
今出てきた、服屋さんのもの。
恐る恐る、それを受け取る。
「やる」
「……これは?」
あまりにも予想外のことだったので、私は思わずそう聞いた。
それに対して、ニッパーさんは言葉を探すように、少し言いあぐねている。
数秒経って、彼は口を開いた。
「……俺はアンタが言った、ライカが人間の女性っていう仮定を、どうしても考えられない」
「あ、はい……」
「だから、アンタが着た時のことを想定して、考えた。その結果、個人的には、それが最良だと思った」
……嘘だ。
目の前にある紙袋。
中に入っているものを、想像した。
でも、そんなこと、あり得ない。
だって、さっきまでずっと――。
「な、中! 袋の中、見てみてもいいですか!?」
「無論だ」
許可を得た瞬間、私は一も二もなく紙袋を開いた。
中に、軽くてフワフワしたものがいくつか入っている。
私が最後に試着して見せた、服の一式だった。
「さっきハウンズのリーダーに、話しついでに何を選べばいいか聞いたんだけどな」
頭が追い付かないで呆然としていると、ニッパーさんは言ってきた。
「自分が美しいと思うものを選べ、と言われた――何のことかわからなくて聞いたら、ずっと目に焼き付けておきたいものが、美しいらしい」
淡々と、少しの照れも見せないで、彼は続ける。
「だから、それにした。さっきの選択肢の中では、その姿のアンタを一番、目に焼き付けたいと思った――なぜかと言われると、よくは、わからないが」
「……はい」
「それで、大丈夫か?」
「はい」
「泣いてるのか? 何か問題が?」
「ッ……いいえ」
少し出そうになった涙を、ぐっと堪える。
問題が? じゃないんですよ、まったく。
本当に卑怯だ、この人は。
こっちが諦めようとした矢先に、こういうことをする。
こっちの気も知らないで、無自覚に気持ちをかき回して。
こういうところだ。
不器用にこういうことをするから。
私は、この人を――。
「ニッパーさん」
「ん?」
「ありがとうございます。凄く、その……嬉しいです」
「なら、いい」
彼はいつも通りの無表情で、そう言った。
きっと本当に何の他意もなく、これを選んで、買ってくれたんだろう。
それが、たまらなく嬉しかった。
自分でも単純だなと思う。
あのやり取りひとつで、すっかり上機嫌になって、紙袋を抱きしめたりしちゃうのだから。
「あの、お金――」
「必要ない。もう行こう」
「あ……はい!」
彼の言葉に私はそう返事して、二人で雑貨店に向かい始めた。
なんだかんだで、結構時間を食っちゃった。
ナナさんたち、もうついてるだろうか?
「あ、レイ! ニッパー!」
すると、そんな声が聞こえた。ミサさんの声だ。
二人で声がした方向を向くと、そこには、ナナさんたち――つまり、はぐれた他の4人がいた。
「皆さん!」
どうやら、まだ雑貨屋には着いていなかったみたいだ。
手を振って、ナナさんたちの元に駆け寄った。
「よかった、やっと合流できたわね」
「いやあ、心配したよ、ホントに」
「心配してる人の食べっぷりじゃないわよ、ミサ……」
どうやらナナさんたちはどこかで買い食いしてきたらしい。
よく見るとお菓子の食べかすが口元についているミサさんに、ナナさんは呆れながらそう言っていた。
「ムグ……ムム、美味かったぞ、帰りにお前らも連れてってやろう」
「ヨーコ、食べながらしゃべらない」
未だに口元をもごもごさせているヨーコさんに、そう諫めるリリアさん。
なんだか安心する。
よかった、いつもの感じだ。
「……ところでさぁレイ、その紙袋なんなの?」
と、ミサさんが私が抱えている紙袋に気づいたようで、そう聞いてきた。
「あ、あそこの服屋さんで買ってもらったやつです」
「……買ってもらった、誰に?」
と、ナナさんが訝しんだ顔をして、聞いてきた。
「あー……ニッパーさんに」
「「え?」」
すると、私とニッパーさん以外の全員が、思わずといったようにそんな声を出した。
でも気持ちはわかる。私も未だにびっくりしてるもの。
「はぁー!? ズルい! 私もなんか奢ってよニッパー!」
「お菓子買ってくれ、お菓子」
「済まんが、手持ちがもうない」
「ヨーコ、あんだけ食べてまだ食べるの?」
催促するミサさんとヨーコさんに、ニッパーさんはバッサリと切り捨てて、リリアさんがため息を吐く。
なんだか、こんな感じのやり取りも、すっかり慣れたもんだなあ、と、見ながら思う。
「……よかったわね、レイ」
「あ、はい!」
ナナさんも、いつも通り落ち着いた口調でそう話す。
でも、私は聞き逃さなかった。
本当にごく小さい声で、『いいな』と呟いたのを。
……結局、ニッパーさんがライカちゃん以外に興味を持っているのかは、わからない。
でも、今はまだ、それでいい。
興味があるかはともかく、少なくとも、私たちのことは、あの人なりに考えてくれている。
それが、今日わかったから。
「じゃ、本来の目的に戻りましょうか」
「はい!」
私はナナさんにそう返事をして、言い合っている他の4人の輪に入った。
その後の買い物は、つつがなく無事終わった。
ニッパーさんについては、今日が成功したかどうかは、お姉ちゃんには悪いけど、私にはわからない。
ひとつだけ確かなことがあるとすれば。
今日は最高の休日だった、ということだ。




