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甲冑騎士とキズモノ令嬢  作者: あかこ
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閑話


「お兄様、お帰りなさい」

「ただいま」


 睡眠をとらず愛馬トリエルを走らせた結果、朝の時刻には戻ってきたアレッシオを待っていたのは朝食を食べ終えた妹ナディアだった。

 流石に夜通し走らせたためトリエルは早々に厩で休ませている。

 アレッシオも仮眠を取った後、午後から職務に就こうと思って屋敷に戻ったところでナディアと鉢合わせをしたのだ。

 妹は兄が何処に出掛けていたのか使用人に聞いていたらしく、妙に好奇心の強い眼差しをアレッシオに向けていた。

 何を聞きたいのか分かるその眼差しに苦笑しつつ、それでもアレッシオは何も語らず近くで待機していた使用人に軽食の用意を依頼する。


「ねえ、お兄様。どうでしたか?」

「どうって……」


 我慢が出来なかったのだろう、テーブルに着席したアレッシオに対し直球で聞いてきた。

 既に食事も終えたというのに、何故かナディアも着席をして使用人に紅茶を頼んでいる。

 運ばれてきた軽食のパンを手に取ってから甲冑の口元を開く。既に慣れた甲冑での食事に差して苦も無くアレッシオはパンを頬張った。焼き立てらしいパンは柔らかく空腹だった胃を癒していく。


「……少し話をしてきただけだよ」

「話ってどんな?」

「僕の好きな詩集の話とか、彼女が好きな本の話とか。あとは彼女の父君の故郷の話とかだよ」

「まあ、お兄様。とても親密じゃないですか」


 喉を通していたパンが気管支に入り、軽く咽た。

 何故そうなるのだ? と思いナディアを見る。


「お兄様がそんなにお話をすることって珍しいじゃないですか」

「そんなことはないよ」

「いっつも話題に困ってるくせに」

「…………」


 アレッシオは無言で食事を進める。

 ナディアの言う通りだった。アレッシオは決して話術が得意な人間ではない。過去、お付き合いをした女性に「つまらない」と言われ飽きられたこともあった。

 そうなのだ。

 自分は面白い人間ではない。

 それなのにミモザはいつも楽しそうに顔をこちらに向け、高い背であるアレッシオを見上げながら表情を綻ばせてくれるのだ。

 会話が途切れてしまっても気にすることなく彼女は花畑や空を眺めアレッシオとの時間を楽しんでくれていた。

 彼女から話題を振ってくれることもあるし、何気ないミモザの日常を楽しそうに語ってくれることもあった。

 その一つ一つが楽しかった。


「…………何を考えてるんですか?」

「え?」

「手。止まってるから」


 パンを持っていた手が止まっていたらしい。

 アレッシオは黙ってそのパンを口に入れた。


 表情は見えていないはずなのに、長年アレッシオに付き合っているせいかナディアには気持ちを知られていることが多い。

 この気持ちを知られる事に恥じらいを感じ、アレッシオは少し早めに食事を終わらせ紅茶を一気に飲み干した。


「ご馳走様。仮眠をしたら午後は仕事に行くよ」

「分かりました……そういえばお兄様。何か香水をつけられてますか?」

「え?」

「なんだかとても良い香りがしていらっしゃるから」


 そう言われて、ふと思い出すのはマーガレットの花畑。

 彼女から贈られた花束の事も思い出した。

『ナディア様にお土産です』と渡された花束を、妹に伝えるならまさに今なのだろう。


「…………出掛けた先で花が沢山咲いていたんだよ」

「そうなんですね! いいなあ、私も行きたい」

「今度王城内の庭園でも案内するよ」

「まあ!」


 ありがとう、と微笑むナディアに対し勝手に後ろめたさを抱いたが。

 それでもアレッシオは、妹に花束を渡すことはしなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 毎回、楽しく拝読しています。 アレッシオとミモザ、とても素敵なふたりですね(^^) 心優しいふたり。 応援したくなります。
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