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甲冑騎士とキズモノ令嬢  作者: あかこ
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エピローグ

「これでいいわ」


 ミモザの母が花冠を娘の頭に載せる。

 マリーゴールドの花冠に手を添えるミモザの姿は純白のドレスに包まれていた。

 この日、ミモザの結婚式が行われるのだ。


「おかしくないですか?」

「問題ないわよ」


 淡々とした口調の母だが、その口角はいつもより穏やかに微笑んでいた。

 ミモザのドレス姿は美しく、キラキラと散りばめられた宝石が陽の光に照らされ輝いている。

 化粧を施したミモザは、いつもより大人びた表情をしていたが、それでも笑う姿はいつもと何も変わらない。

 支度を終えるのを待っていた父に視線を送れば、そっと手を広げる。

 涙目の父グレイルは、そのままドレスや化粧が崩れないよう、そっとミモザを抱き締めた。


「世界で一番美しい花嫁だ」


 首元から肩にかけて素肌は見えないようレースで隠されていた素肌に手を添えて、愛おしそうに額に口づける。

 もしかしたら、数年前に見ていた景色だったのかもしれない。

 しかし言葉にはしない。

 過去が何であろうとも、今のミモザが幸せならば、それで十分なのだから。


「ミモザ。時間よ」


 母マーレアの声にミモザは頷く。

 母の手を取り、ミモザはゆっくりと歩きだした。




 式は王都から離れた平原に建てられた教会で行った。

 英雄と呼ばれるアレッシオの結婚式ともなれば、嫌でも騒ぎになることが目に見えていたからだ。

 何処か申し訳なさそうにするアレッシオに苦笑しつつ、ミモザと共にこの平原での挙式を決めた。

 花畑が全面に広がる美しい教会は、二人で行ったエタンフィールの花畑を思い出させたからだ。

 何より静かな場所で式を迎えたいという、二人の希望と合致していたこともあった。

 招待された者は少ない。

 英雄が行うにはほど遠い小さな式こそが、アレッシオとミモザの性格を物語っていた。


 式場の前で正装したアレッシオが立っていた。

 黒い式服を身に纏い、髪を整えた様相の彼を見た瞬間、ミモザはもう一度恋をした。


「アレッシオ様、素敵です」

「…………先に言わないで下さいよ」


 アレッシオは頬を赤らめながらミモザの両手を取り微笑んだ。


「とても綺麗です。ミモザ」


 見つめる瞳が真っ直ぐにミモザを捉える。

 真っ直ぐな言葉にミモザもまた頬を染めて微笑んだ。


「行きましょう」

「はい」


 手を取り、宣誓する式場に足を向ける。

 奏でられる音楽。参列する招待客は二人を静かに見守っている。

 祭壇の前にはレイギウスが立っていた。

 レイギウスの前に並び、彼の宣誓の言葉に目を閉じる。

 神の名の元に二人を夫婦とし、死を分かつまで傍にいることを誓うと。

 アレッシオ・サシャが「はい」と言葉を紡ぎ。

 ミモザ・エタンフィールが「誓います」と返す。


 互いに見つめ合い、ゆっくりと口づけをかわす。

 長身のアレッシオが少しだけ屈んでかわす口づけは、緊張でほんの少し震えていた。




 歓声が上がる。

 優しい風が吹いて、花吹雪が二人の元に舞い落ちる。

 祝福するように、美しい花が揺れている。


 照れくさそうに見つめ合い、そして笑う。

 



 そんな特別な一日を、もう二度と忘れることはないだろう。

 パズルの欠片のように零れ落ち、記憶を失っていた日々はもう訪れない。

 花の鮮やかな色も、真っ青な空の大きさも、頬を撫でる風の温もりも。

 微笑んだ時に見せてくれる愛しい人の笑顔も、蜂蜜のように甘い瞳の色も。

 金糸のように優しく撫でる髪の柔らかさも、天の声のように穏やかな歌声も。

 

 もう、忘れることはないだろう。



 アレッシオは英雄ではない。

 神に借りた力は存在せず、ドラゴンを倒すことも出来ないだろう。

 兜の力は存在しない、それでも。



 護ってみせる。





 この物語は、甲冑を外した騎士と、ただ一人の令嬢の。

 ささやかで愛しい恋物語。


最後までお付き合い頂きありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] アレッシオとミモザ、悲しみや苦しみを抱えた二人が心を通わせていく過程がよく描かれていて、読者としてもアレッシオの記憶が戻ることを祈らずにはいられませんでした。 [一言] 一度は魔に魅入られ…
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