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22話目


22話目


「いったぁ」


 全身を強く打ちのたうち回る事しかできない明輝くん。腕や頭には大量の湿布を張り、即席の処置をしている。

 後遺症は出ないように手加減をしていたが、痛みは最大限出るように相手をしていたので、こんな有様になっているんだ。僕としては顔面を蹴とばしたり、腹部を何度も殴打したのでその程度の湿布でどうにかできるとは思わない。


 出来る事なら病院にでもいってほしいが、ボコボコにした手前言える事ではない。


「ほら水買ってきたよ」

「ありがとうございます。忘れてしまっていて」

「近くに自販機合ったからいいよ」


 水を持ってくるのを忘れて居たみたいなので買ってきてあげたんだ。

 元気よく返事をし、飲み干す勢いで水を飲み干したのをみて安心しながら座る。格闘技のプロでもない僕が相手をするのはいつだって不安があるんだ。

 特に今日の様な組み手だとちょっとした間違いで死んでしまうかも知れない。


 もちろんそうならないようにしているし、これでも体術を習った事もある。それに戦場に身一つで魔術すら使えない状態で出されたことだってあるんだ。早々間違えた事は起きない。


 しかし僕が習ってきたのは、相手を殺す技術。

 それを使って相手をするのだから不安になってしまうのは仕方がない。


 だからこそ大丈夫そうで安堵している。明輝君を見ればそれも直ぐにわかる。


 その時一つ思い出した事があった。

 

「明輝君はこれからどうするの?」

「ん、どうするですか?」

「もう研究は終わったけど、これからどうするのかなって。レイリーと歌瀬はこのまま魔力の研究をしてくれるみたいだし縁側さんも手伝ってくれるんだけど。」

「……まあ、僕はどうやっても魔力を見る事は出来ないですからね。」


 この世界には個性を持った人が大勢いるけど、中には持っていない人がいる。個性は遺伝するから昔ほどいるわけではないが、全体の1%程は確実に居るんだ。明輝君はその1%に当てはまる。

 世間ではその1%を劣化なんて言って貶したりしているんだ。


 最近はテレビでも新聞でもそのような言い方は規制されているから、知らない人もいるかも知れないが、ちょっとアングラな掲示板を見れば直ぐに貶されていることがわかる。明輝君もそう言う対応をされてきたから、いまだって苦い顔をしているんだ。


「魔力を自然力と偽って公表しているとは言え世間の評価は前よりも熾烈になっている。チームで決めた事とは言え公表しない方がよかったのかもし…」

「いいんですよ。世間を気にするならもっと良いやり方が合ったのかも知れないけど、これからの子供たちの事を考えればベストはこれだったんです。」


 遠い目をしながら言葉を絞りだした。

 年々個性を持たずに生まれてくる子供は減って行っているのでいつかは明輝君のような人は居なくなると思う。でも、それは明輝君ではない。


「僕の事はいいんですよ! この前だって大学の教授にならないかって招待が来たんですから。そんな事よりもアルトさんはどうするんですか。レイリーさんの家にいるとはいえ根無し草の様な物じゃないですか。」

「ん~どうしようかなって決めかねているんだよね。」

「それなら大学に行くのはどうですか。学歴は持っておいた方が良いですよ。研究者になるなら学歴は必要だし。」

「それなら大丈夫だよ。この前レイリーの付き添いで会った学長に卒業歴は貰ったから。」

「え、、、、不正ですよね。」

「あいさつ代わりのように貰ったよ。でも、その学長が面倒くさくて困っているんだよね。」


 その学長とは会ってからそれなりに連絡を取り合っている。何でも僕が自然力膨張の研究に携わっていた事をレイリーが教えたらしく興味を持っているよう。


「この前なんて「自然力を教えれるのはあんただけだ!」って臨時とは言え教授にしようとしてきたんだから。」

「」


 数日前の事だ。その時は流石に突拍子もなくて断らせてもらったが、今考えれば大学の学歴を偽装している身なのになんでお願いしてきたんだろうか?

 チームの皆には色々教えてはいたが、教授ともなれば規模感が違うはずだ。


 レイリーに相談する事すらせずに断ったが、後悔はしていない。


「でも断るんじゃなかったなぁ。根無し葉無しの身なんだから話くらい聞けばよかったかもしれない。」

「」


 明輝君は何がおきているのか理解できていないようで、頭の上には数匹の鳩と星が飛んでいる。

 

「せっかくだし今聞いてみることにしようかな。」


 こんな話をしていると今後の事が気になって来るものだ。いてもたってもいられず、学長に打診してもらう事にした。

 明輝君はこんな状態だから放置していても大丈夫だしね。


「えっと、スマホスマホ。」


 研究者として給料を貰って働いていたので最近スマホを買ったんだ。レイリーからは何度も買えと言われていたんだけど、連絡くらいスマホがなくとも魔術で何とでも出来るのでいらないっていって拒否してたんだ。

 だけど、あったらあったで意外と便利だった。


 買ったばかりのスマホを、おぼつかないながらタップし求めていた人……ダルンサ学長を見つけた。ダルンサ学長はヘラクレス学園と言う小中高大全部複合したデカい学校のてっぺんの人だ。

 ヘラクレスという名前を付けているだけあって学長の意気が分かるのだが、実際世界レベルで見れば相当高位の学園らしく、この学園に入るためだけに勉強する人も居るんだとか。


 ちなみにレイリーはヘラクレス学園出身だ。


 「……よし。」


 貰った電話番号を見つけてかけてみる。学長だけそう簡単にかけていいのか考えさせられるが、どうせいつかけても同じだろう。


 プルプルと言う音が隣の明輝君にも分かるほど鳴り響いており、3コールが過ぎたころ出ないのかなと頭によぎった。しかしそのまま待機しているとガチャと言う音とともに見知った声が出てきた。


『ハロー、こちらダルンサだ。今日は雨日和だから用件は早めに話してくれ。ジメジメして気分が浮かばないんだ。』

「アルトです。」

『おお、アルトくんか! どうしたんだ? 私としては教授にでもなってもらいたいんだが』

「その件です。気が変わりまして、僕を雇ってもらいたいのです。」

『!!! いいのかい!』

「お願いします。」

『おふぉぉお!!! 今日は気分がいい! 気分が良いよ!』

 

 電話越しで暴れていることが分かり、「パリン!」や「バキ」等の物が壊れる音が聞こえるが気にしない。


『キャ! 裸で走り回ってどうしたんですか!』


 ……気にしない。


「が、学長大丈夫ですか」

『なにがかい? そうだ、ちょっと待っていてくれ! 今すぐ雇うための物を整えるからな。明日には飛行機のチケットが届くだろうから着てくれよ。それじゃ!』


 ツーツーツー


「切れた……」


 嵐のような人で見ている分には面白い人なのだが……これからこの人の下で働く事を思うと少し体が重くなる。しかし明日には飛行機に乗らなければいけないのだから動かないわけにはいかない。

 強くため息をつきながらこの後の予定を確かめる。


 幸いにも予定帳は真っ白であり、やることが無いのは一目でわかる。


「まあ、この後の予定が出来たって、前向きに考えればいいか。」

 

 ここ最近は自然力膨張症の研究が終わったせいで、やることが無くて逆に疲れたんだ。知見を増やすために少しくらい好き勝手していいだろう。

 それに治療法が確立したからと言って、その治療が出来る人は今のところ片手で数えることが出来る程度。それでは研究した意味がない。


 ここは一肌脱いで世間のために役に立とう。


「明輝君。僕教授になる事になったから。明日には日本を立つよ。」

「……え、、? えっと、どこに行くんですか。」


 復活したようでチームの皆に伝言は任せられそうだ。


「ヘラクレス学園。イギリスだよ。」


 イギリスは個性の研究が意欲的にされているみたいだから、自然力を発表した時はイギリスの時計が止まるなんて比喩されるほど有名で、それほど激震が走ったみたいなんだよね~。

 それに、魔術に関連する物が沢山あるみたいだから楽しみだ。


「え!!!!!!」


 明輝君の驚愕した声が消えていく。





【魔術史最後の生き残りである1匹と1人は異能の世界で生きていく】をご覧いただきありがとうございます。もしよければブックマークや評価をしてくださるとうれしいです。


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