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ならず者の迷宮  作者: 林集一
第3章 3日目
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第9話  縄梯子の入り口


 酒場の外は早朝のためか人通りが少ない。その代わりとでもいうのか、朝鳥がビーチクビーチク煩い。


 寝不足の身には高い雑音が堪える……。


 さて、テーブルには昨日も顔を合わせた5人。


 席も変わらず固定されているので、程よい一体感だ。


「さ、今日は昨日立てた予定通りに“縄梯子の入り口”を使って直接第2階層へ向かうわ」


 カレハ団長そう切り出した。


「へえ、宜しくお願い致しやす」


 縄梯子の入り口とは、この街に数あるダンジョンの入り口の1つで、一昨日の貧民街にある。


 井戸を掘ろうとした貧民がダンジョンの第1階層を突き破って第2階層へ出てしまった……! というエピソードで出来た入り口らしい。


 通行料金は1パーティ銅貨1枚。良心的な値段なのは、貧民街で金を持ってると思われるとロクな事が無いからだとか何だとか……。


 そんな所に行くに当たって、警戒しない訳にはいかないだろう。


 特に役割が“斥候”となれば、気を張って挑まねばならない。


 気合を入れて四方を睨みつけながらパーティの前方を歩いていくと、後ろからポンと肩を叩かれた。


「貧民街でそれは逆効果だ。敵だと思われたら街全体から狙われるが、客だと思われているうちは狙われねェ」


「あっ、そうそう、モチは貧民街出身なのよ〜」


 アンコロモチの端っこの“モチ”か。


 確か貧民街に銅貨で買える春があるとか言ってた奴だ。


「はは、バラされてしまったか。まぁそういう事だ。……貧民街は弱い者が群れて暮らしているので、基本的には暴力装置の冒険者は襲わない。余っ程金満顔だったりクソ野郎だったりしたら秒で襲われるがな」


「だから、無駄に威嚇しない方が良い。今から気を張っていたら疲れるだろう。気力は後にとっておけ」


「へぇ、ありがとう御座いやす」


 流石出身地。堂々としている。


 所々で飛ばしているハンドサインみたいなものも意味があるのだろう。


 そうこうしているうちに貧民街の真ん中、縄梯子の門へと辿り着いた。


「……これが門か」


「門だよぉ〜」


 気の抜けた声が響く。子供みたいな身長のラファリーだが、彼女にとってもここ貧民街の奥地は見知った場所なのか……と思った。


 そしてすぐに彼女がダンジョンへ潜るに当たっての先輩な事を思い出す。


 ダンジョンの入口たる門とは名ばかりで、穴と縄梯子だけのシンプルなものだ。ニチャニチャした顔のババァが床に開いた大穴の前に立っている。 


「いらっしゃいませ毒空団様。本日は犬追物様と冷酷軍団様が入っております。また昨日からゴールデンバウムクラン様が入ったままとなっております。行かれますか?」


「3組か、まぁ危なそうな奴等は入ってないし、大丈夫そうね。行くわ」


「では、ご武運を」


 犬追物? 冷酷軍団? ゴールデンバウムクラン? センスが悪いんだか何だか分からないパーティ名だ。


 特に冷酷軍団って何だ。それで「危なそうな奴等は入ってない」って言われるのは大丈夫なのか?


 ……。 


 俺達は縄梯子を伝いながらゆっくりと穴の底へと降りて行く。下は安全地帯として魔除けの草が植えられており、降りてすぐ襲われる事は……ほぼ(・・)ない。


 ……ほぼというのが怖いが、進まねば何にもならんので進む。


 穴は縦穴と言うより斜め穴に近く、途中何度か6人程が休憩出来る大きめの広場があり、仮に途中で冒険者が登り下りで対面しても問題無い作りになっていた。


「想像したよりも深い。少し怖いでやんすね」


「地下40m程度らしいわ。昨日も話したけれど、そこから先は地下迷宮第2回層“鉱水回廊”。そこに生きる魔物は水棲生物と無生物。本来ならば“窒息”使いの私にしたら苦手な階層なのだけれども、窒息以外の手段を使って敵を倒すから安心して」 


「へぇ、分かりやした。疑っておりやせん」


「それはどうも」


 そうこうしているうちに穴の底へと辿り着いた。床を敷き詰める様にして薄荷草(ミント)の干し草が散らばっており、慣れた魔除けの香りがした。


 四角い部屋の奥には木製の扉があるが、鍵などは掛かっている様子はない。


 あの奥には一昨日のオオネズミよりも恐ろしい魔物が居るのだろう。


 自身がゴクリと唾を飲む音が聞こえた。


「……アッシの仕事は解体と警戒でやんすね」


「そうよ」


 俺は産まれながらの腕力薄弱で、まともには戦えない。


 故に確認の意味で“戦闘”を行わなくて良い事を確認しつつ、これから先は俺が“警戒”しなければならない事を確かめる。


 やらねばならぬ。


 10倍の報酬があるとなれば銅貨数十枚。田舎に居た時と比べれば天と地の差だ。賤業をしてや一カ月以上の収入。


 ここは期待に答えねばならないだろう



 森の中でうさぎ穴を見付けるが如く。


 暗闇で畦の蛙を数えるが如く。


 視覚情報が脳に届かなくなる程の集中。音を拾う地点を行く先の遠く遠くへと飛ばしていく。


「…………」


「どう?」


「……2ブロック先に四足のデカいのが2匹と、天井に大蝙蝠が4匹おりやす。蝙蝠には捕捉されてやすが、デカいのは寝てる様子でさ」


 四足のデカいのはその大きさから鰐と呼ばれる大顎の爬虫類だろう。前情報がなければ軽い混乱状態になっていたかも知れない。


 大蝙蝠程度なら鉄の武装を引っ提げた戦戦戦の前衛3枚は抜けないだろう。クレハ団長の言っていた“窒息”以外の魔法が決まればそう苦戦する事もない筈だ。


「ワニかぁ〜。私の猛炎もクレハ団長の窒息も相性最悪だわね」


「ワニ2匹なら作戦陣形Aで行くわよ」


「「「了!」」」

 

「了解〜」

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