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ならず者の迷宮  作者: 林集一
第9章 8日目
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第24話 爆発音


 昨夜の夜は凄まじかった。


 夕刻にトラッキンの酒場で皆と別れた後、俺は一旦宿に戻って「俺は宿に居るぞ」と言う現場照明をした後、身を清めて川橋亭へと向かった。


 扉を開けると、痘痕の醜女が俺を待っていた。


 身体から立ち昇る性の香り。迷宮の魔物を彷彿とさせる程の瘴気。


 受付台の上にキンと銀貨を置くと、彼女の目の色が変わった。


「本当に良いのか? 私に銀貨払うくらいなら色街の方が美人が居るぞ」


「お前が良いんだ。お前が」


「嬉しい」


 それから先はもう、凄まじきと形容するに相応しい営みだった。


 狼が唸る。爆発音。不可聴域の絶叫。砂漠で古井戸の水を飲むような喉越し。神経を遮る五指の握力。意識は夢を飛び越えて、数えるのも馬鹿らしい程に反復横跳びをしている。豊穣を約束された稲光の如く視界は明滅を繰り返し、俺の脳内に醜女の顔を焼き写しす……。


 終わった頃には深夜になっていた。泊まっては居ないが、好意(行為(こうい))で使わせて貰っている寝台に二人で横になって少し話をした。


「なぁ、何故私を選んでくれた」


「初めての相手と言うのもあるが、愛嬌を好いた。何故と言われると困る」


 返答はないが、彼女が俺を抱く手に力が入った。


「今日のお仕事は良い成果だったか」


「人の頭を解体するのは気分の悪い事だった」


「その気持ち分かる」


 いや、分からんだろう。


 人の頭を解体する時の気持ちなど、体験してみなければ分からない。それは、気軽に分かるなどと言って欲しくなかった。


 ……。


 無言の時間が流れる。


「……私は父に嫌な仕事をさせられている」


「分かる」


 俺は一言だけそう返した。


 賢者たる俺は、面倒な事になりそうな話題から逃げる様に話を切り上げた。


 彼女は“それは、気軽に分かると言って欲しくなかった”と言う顔をしている。


「宿に帰らねばならぬ」


 そう言い残し、抱擁をして宿へ向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 いやぁ〜、いや。


 いかんな、これはいかん。


 一晩一晩、抜かれる生気の量が桁違いに増えていく。己の何処にそんなアレが詰まっていたのか、寝台の惨状を思い出しても謎でしかない。


 見た目の問題で絶対に違うという確証があるが、痘痕の醜女の正体が伝説の淫魔だと言われてもおかしくない。


 そして、彼女との行為が日に日に愛おしくなっていく。それが、不味い。


 今日明日は正気を保っていられるかも知れないが、明後日以降は……どうなっているのか想像もつかない。


 これは、愛なのだろうか。


 そうだと言われても納得がいくが、終着点が見えない。


 家もなく親の居ぬ身ではあるが、身を固める覚悟があるかと言われたら、ある。


 だが、彼女を置いて死ぬ危険性を考えたら、気軽に貰おうとも言えない。


 そもそも、まだ1週間程しか顔を合わせてはいないのだ……。


 宿までの道のりは、色々と考える事が出来たので、宿を変えたのは正解なのだろう。そのまま彼女の隣で寝ていれば、明日の朝日を拝む事なく陶酔の世界に溺れていたやも知れぬ。


「頼もう」


 小声でそう呟くと、宿屋の女将さんの部屋をトントンと叩いた。中からゴソゴソと起き上がる音が聞こえたので「チングでやす。遅くなりやした」と伝えると「はいはい」と事務的な答えが返ってきた。


 その後女将さんは宿の鎧戸の鍵を開けて、俺の部屋の側まで蝋燭を持って案内した。


「程々にしときな、色男」


「面目ない」


 明日は少し早く帰ろうか。


 それが己の寿命を延ばす事に繋がるかも知れない。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇ ◇


 その夜。


 夢で闇の精霊を名乗る者に出会った。


 


「我等が闇の精霊の評価に於いて汝の貫目が上がった。力を欲するか?」


「欲する」


「では、授ける」


 力の奔流が目に鼻に耳にビシビシと雪崩込んで来るのが分かる。


 恐らく、気配を感じ取る力が増したのだろう。


 これ以上気配を探る能力が強くなっても持ち腐れな様な気もするが、貰えるモノは貰っておくに限る……。


 噂には聞いていたが、迷宮等で魔物退治をする事によって精霊に魅入られて、夢を見る度に力を付けていく“格上げ”なる現象がある。


 冒険者はそうやって一つ一つ強さを得るのだ。


 目が覚めると、世界が一層透明感を増したような気が……した。





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