第23話 帰路
俺は助けを求める祠人の手を叩き落した。
恨みがましい顔をした祠人はギロリと俺を睨んたが……次の瞬間。ラファリーの放った炎の圧に押され、仰向けに倒れた。
そのまま、ジタバタと暴れて……やがて動かなくなり、消えた。
「あちゃーーーやっちまったな」
「シツコイんだよなぁーアイツ」
アンとコロとが鉄兜の上から頭を掻いた。
「シツコイ……どういう事でやすか?」
いかに執念深いとはいえ、死んだ者はもう現れまい。
「……アレはね、まだ死んでないのよ。此処には居ない人間の分身なの」
何とまだ死んでいなかったか。
「分身でやすか」
「そう、まだ本体は死んでないのよ。だから迷宮にいる限りまたすぐに現れるわ。そして、アレはひたすらに性格が悪い。多分本人は善意のつもりなんだろうね。人にモノをあげて、その恩を返してくれないと逆恨みする。その恨みを買うと、しつこく付き纏って延々と嫌がらせをしてくるの。だから、触らぬ神に祟りなし……祠人と呼ばれているのよ」
「アレは生きている人間なんでやすか」
「そう、生きている人間。ただ、相当の異常者よ。……迷宮の怪異と呼ばれる程には」
団長はそう言いながら、消え掛けている炎を眺めて心底嫌そうな顔をしている。
「そ、そうでやすか」
「具体的に手を出して来たりはしないんだけど、迷宮に居る限りちょいちょい現れては、邪魔をしてくるの。……事故が起きる可能性が上がるわ」
「戦闘中とか視界の端をチョロチョロしたり、くだらない冗句を延々と言ってきたり……イライラするんだよなぁー」
「気を付けてほとぼりがさめるのを待つしかないわね」
「案外これがくだんの呪いだったりしてな」
「はっはっは……」
「笑えないんですケドぉーー!」
ともあれ、今日の冒険はこれでお開きとなって、帰る事となった。
冒険者組合にも報告が必要だろう。
◇ ◇ ◇ ◇
帰り道で出会ったオオネズミはアンコロのどっちかが倒した。死体の損傷が激しく、しっぽくらいしか獲れる素材がなかった。
だが、くだんの首やら素材が超絶高価買取だったので、幾つか必要な物を買取から除いても金貨5枚ちょいの収入となった。
くだんの皮は鞣して予言書になるらしく、見た目はただの牛皮なのだが、金貨4枚の超々高価買取となった。
仔牛でなく成牛なら村が丸ごと買える金額になるそうだが……金貨4枚の時点で充分家は建つ収入なので、不吉な予言と天秤に掛けられる価値はあるだろう。
と言うか、そんな解体を任されていたのかと思うと、祠人に話し掛けられた時以上に鳥肌が立った。
あと、首は団長が使うという事で、私物として団長の買取となった。どうやら、人面の魔物の顔の皮は干し首にすると強力な呪具になるらしい。と言うか干し首の加工も任された。
見た目としてはただの人間の生首なので、心情としては少し加工しづらい所はあるが、賤業従事者としてやらない選択肢はない。
先ず生首から目玉をくり抜き、丁寧に皮を剥ぐ。
そして、頭蓋骨を綺麗に割って脳味噌を取り出し、先ほどくり抜いた目玉をくっつける。
最後に剥いた皮で優しく包んで俺の仕事は終わりだ。
これが良い感じに乾燥すると、握りこぶし大の大きさに縮んで良い感じの呪具になるとか。
後は乾燥機に入れて1週間待つだけ。
余った頭蓋骨はまぁ、占い師が手をかざしてるアレになるらしい。どうにも不吉な事しか言わなさそうで、俺はタダで占うと言われても御免被る。
最後にくだんの肺。先日ウサンタールさんの家にあった罠の、そよ風袋みたいな呪詛袋になるらしく、団長の判断で組の預かりとなった。握り潰すだけで使える簡易云鏖殺になるらしい。
こんなヤバい物になるなら、金貨で取引されているのもよく分かる。
そういや、団長が云鏖殺を使った時に触媒に使っていたのは十数枚の謎の呪文に刻まれた獣皮紙だったな。
団長は日頃から獣皮を欲しがっているし、多分集めた皮をああやって使ってるんだろうなと合点した。即死の魔法は強い。
そして、最後に俺の分け前は銀貨18枚となり、賤しい身分としては破格の収入となった。
これだけで1月は遊んで暮らせるだろう。派手に遊ぶつもりはないが、無駄使いをしない訳でもない。
ふふ、待っていろ。
痘痕の醜女め。
脳から血が抜ける音が聞こえる。




