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ならず者の迷宮  作者: 林集一
第6章 毒空団と賊騎士ウサンタール
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閑話その3 例の日の帰りのウサンタール


 宿屋の女将さんに小粋な挨拶をして、何食わぬ顔で宿に戻ってきた万雷のウサンタールは居室に入って鍵を掛けた。


施錠(ロック)魔法障壁(マジックバリア)闇抵抗(レジストダーク)


 キンという魔法展開音が密封された部屋に3回響く。


「……ふぅ」


 一息。深いため息を吐いたウサンタールはズルズルと床に崩れ落ちた。


 そして、痛みに耐える素振りをしながら右手の分厚い革手袋を外すと、黒い靄の様なモノに侵食されて所々腐っている右手が現れた。


「……(マジックヒール)


 残る左手で右手に向かって癒やしの魔法を使うも、黒い靄に阻まれて癒えが悪い。


 幾度かの重ね掛けを経てやっと指先の感覚を取り戻したくらいだ。


「おー、いちち。一体どんな呪いだこれは……」


 さっき外した革手袋を振ると、中から銀色の金属片がポロポロとこぼれ落ちた。


 大き目の革手袋。これはウサンタールの秘密道具のような物で、中に複数の“魔法の指輪”を嵌め込んであり、手袋を嵌めるだけで各指5本の指輪の効果を得られるものだ。


 今回仕込んであったのは“呪術耐性付与”・“闇耐性付与”・“状態異常耐性付与”・“上級状態異常鑑定”と、見極めの指輪とも呼ばれている“能力値鑑定”の指輪の5つ。


 そのうちの“呪術耐性付与”・“闇耐性付与”・“状態異常耐性付与”の3つが粉々に砕けていた。


「3つ砕けてこの威力か……割と強い呪いみたいだな」


 右手を握ったり開いたりしながらそう呟いた。


 ウサンタールは襤褸羽織のチングと握手した時の一瞬の事を思い出す。


 酒場の喧騒。差し出した右手。


 握った瞬間に時が止まったように感じたのは、走馬灯に近い感覚というか、脳内物質が大量に出るほどの危機を感じたのだろう。


「邪魔をするな」


 女の声だった。


 そして、その声の主たる“痘痕の醜女”が一瞬だけチングの背後を横切るようにして姿を表して……消えた。


 その後すぐに訪れた闇の侵食は手袋の指輪を破壊しながらウサンタールの腕の中を食い破ってくる。


(凄く痛い……凄く痛いが……!)


(ここで弱みは見せられん!)


 それを“痩せ我慢”のみで受け止めたのだ。



「……ふぅ」


 思考が現実に戻ってきてため息を吐いた。


 なんて酷い1日だったのだろうか。


 怪我した右手を隠しながら左手のみで戦ったジャイアントカモノハシ戦も割と辛かった。2階のボス程度の敵だから何とかなったが、これが3階をウロつくモンスターだったなら全滅も覚悟しなければならない状態だった。


 本来ならば3階の敵を見せつつ、1回くらい戦って入団試験としたい所だったが、あの状態ならばすぐ撤退でも仕方ないだろう。


 改めて握手した時の異変に思いを巡らす。


 まず、闇の侵食があったという事。


 そして、上級状態異常鑑定に引っ掛からなかった事。


 女の声と女の顔が現れたという事。


 魔法が使われた形跡がないという事。


 これらを統合して考えて導き出される事は……魔法を使わない一般人のめちゃめちゃ怖い女の執着に当てられた。


 ……である。


(そんな事ある?)


 ウサンタールは過去の豊富な(・・・)女性遍歴を思い出して考える。


(無い訳では無いが、明らかに異常事態……という訳か)


 腕に残る僅かな闇の残滓を見送ったウサンタールは、立ち上がって部屋の隅へと向かう。


 明日は襤褸羽織のチングが宝箱の罠の解除法を習いに来るのだ。その為の準備を行う。


「工作は得意ではないが、かわいい後輩のために仕込んでやるかな」


 箱に仕舞われていた訓練用の罠宝箱を取り出し、燃油瓶に魔除けの聖水を注入し、噴霧拡散に使う爆裂の魔石にも光属性の晶石を混ぜ込んだ。


 一通りの仕掛けを組み立てたあと、スンと鼻を鳴らす。


(ワシの加齢臭は大丈夫かな)


「……部屋に魔除け香も焚いておくか」


 魔除けの香と言えば、乾燥させた薄荷草がある。それならば部屋の消臭にもぴったりだ。


 部屋の四隅に盛り塩も行う。これは部屋を清めて正常に保つ効果のあるおまじないである。


 一つ一つは効果の小さなものだが、数が集まれば馬鹿に出来ないものがある。


 今から来る襤褸羽織のチングにはそれでも足りない程の恐ろしい呪いが掛けられているのだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリー自体の面白さだけでなく、文章そのものが素晴らしいです!
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