閑話その1 毒空団と金貨の依頼
時は遡り、襤褸羽織のチングが街に着く前の事。場所はトラッキンの酒場。
いつもの様に朝から集まっていた毒空団の席。
片目の熊男が団長の前に立っていた。
「エーリッヒの件は残念だったな」
熊男は胸元で左手をこねくり回す指仕草をして先日死んだ毒空団の斥候の死を悼んだ。
「どうも、こればかりは仕方ないわ」
何処か遠い目で煙管を揺らし、毒空団の団長カレハ・マスタードはそう答えた。
紫色のローブに包まれたデカい乳。ドレスの様に開いた胸元、団長は話の前置きを流して、続きを催促している様にも見える。
「まぁ、そうだな。じゃあ本題だ。例の件、川橋亭冒険者連続失踪事件。依頼は受けてくれるか?」
熊男は壁にもたれて、入口の方を見張りながらそう言った。
「……安心して、受付の彼は今日休みよ。休みの日は何があっても来ないわ」
「……そうか。だが……あの片腕のギランドラの兄貴の店だ……どの道あまりデカい声は出せんな」
「そうね」
団長はふぅと煙混じりの吐息をこぼした。
「パーティ6人準備出来ない事には難しそうね。暇がある時にはウサンタールさんも手伝ってくれると言っていたけれど、あの人もお忙しいでしょうし……」
「斥候が居ないのが致命的だよねー」
これまで会話に参加していなかった猛炎のラファリーが口を挟んだ。団長の京言葉を補足するフォローだ。
彼女は些細な事から団長の意図を察する事が出来る唯一の存在だった。
「まぁ元々万雷のウサンタールさんと言えば天下の痺れ飛蝗一家だからな。いつまでも毒空団だけに構ってる訳にはいかねぇか」
熊男は仕事の依頼がやんわり断られた事を察して、会話を終わらせに掛かった。
「そうですね……。まぁ、新人が来るか他の助っ人がいたらその時に返事をしますね」
「まぁ良い。もし助っ人が見つかったら、数日中に返事をくれ。川橋亭の冒険者連続失踪事件。報酬は金貨だぞ」
「ふふ……気にかけてはおくわね」
団長は自身の唇を指でなぞり、人差し指を立てて一言「しー」と呟いた。
此処で聞いた事を他所話したりはしないという仕草だ。
トラッキンの酒場の受付、片腕のギランドラ。
彼が兄の店である川橋亭に紹介した冒険者の連続失踪。
誰もが「冒険者なんて地下迷宮でくたばってるに違いない」「まさかギランドラがそんな事しねーよ」と取り合わなかった。
故に、毒空団団長のカレハ・マスタードも真面目に取り合わなかったこの事件。
数日後。
襤褸羽織のチングという新顔が店に迷い込む事により、思わぬ展開を見せる事となる。




