第17話 秘密
「行ってみるかね?」
ジャイアントカモノハシを倒して宝箱まで開けさせてもらった後、帰り支度をしている時にふと後ろから声を掛けられた。
振り返ると、下り階段の脇に立って下の方を刺突剣で差し示すウサンタールさんがいた。
その瞳は真っ直ぐ俺を見ている。
「行ってみるって……アッシに聞いてるんですかい?」
突然の事に困惑が走る。
「無論だよ。襤褸纏いのチング君。私は今、君以外を見ていないよ」
団長の方を見遣ると、ただひたすらにこちらを見ていた。視線には「返事は?」という思いが詰まっているようにも感じる。
「いや、アッシら毒空団はF級冒険者一家なので2階の探索は許可されておりやすが、それから下へ行く許可は得てやせん。お誘いは有り難いのでやすが……」
「ふむ。そちらは気にせずとも良いぞ。吾輩はA級冒険者一家痺れ飛蝗の副団長であるからして、この一味はA級冒険者一家痺れ飛蝗の練習隊その1と申請してある。まぁ、補助要員として大部分は毒空団の助っ人を呼んであるがね」
「A級冒険者……?」
「いかにも」
F級が地下2階の出入りを許されているという事はA級とは……地下7階の出入りを許されているという事か……?
背筋がゾワリと逆立つ。
そうか、ならあのウサンタールさんの出鱈目な強さの合点がいく。
彼は戦闘に重きを置く本職の戦士ではなく複合役割職。更に利き手とは逆の手で戦っていてウチの前衛アン・コロ達を凌駕する強さだからな……。
しかし、7階?
……想像を超える。
わからん。
「吾輩は率直な意見として、君に地下3階の土を踏んでみたいかね? と聞いているのだ」
うーん。
地下3階へ行ってみたいかと問われたら好奇心として行ってみたいというのが人情ではあるが、俺を地下3階へ連れ立ってこのウサンタールさんとやらは何の得になるのだろうか?
痺れ飛蝗? 都会の冒険者に明るい訳では無いが聞いた事がない。名前は大した事なさそうだが、A級という事は最上級の冒険者一家なのだろう。
団長が男爵家の娘という事に関係するのだろうか?
わからん。
これはどう考えても俺の望む答えを出すに至らないだろう。点と点を繋ぐにしても情報が少なくて上手く繋がらない。
ここは素直にやりたい事に立ち返ろう。
……。
「率直な意見でやすが、行きたく思いやす」
「ふむ。して、その心は?」
「死んでも良いと思ったからでやす」
俺の答えにウサンタールさんは頷きを返す。続きを求めている様子だ。
「アッシは田舎で育ちやした。その狭い世界ではアッシの力は過ぎた力でしてね。迷宮でなら活かせると思ってやって参りやした。そこで皆さんと出会いやして、……毎日が驚きの連続でやして、鳥肌が立って膝から崩れ落ちる様な体験をさせて頂いてやす」
「ふむ」
「故に、アッシの目的として本懐は達しているのでやす。後は余生。アッシの力が何処まで届くのか、試してみたい。その過程で殺されるのもまた好し。それが今でも良しという事でありやす」
「ふむ。話はわかったが、どうして吾輩が君を殺さねばならないのだね?」
「殺されるかも知れぬと言うのは喩えでやす。地下2階を回ってみて地下3階はどんな世界なのか想像もつきやせん。ですが、危険さは此処の比じゃないと言うのは分かりやす。儲けだって比じゃないのも分かりやす。そんな場所に田舎者のアッシを連れて行くと言うのはまさに御厚意でやす。アッシを連れて行ってウサンタールさんに得があるかと考えると、何も得られる物はないと思うのでやす」
「……ふむ」
「故にアッシから差し出せるのは命くらいかと思いやして、そう伝えた迄で御座いやす。御厚意に対して失礼かと存じますが、ここは取り繕うより本心を伝えた方が良いという判断いたしやした」
「そうか、……そうかそうか。いやありがとう。君の本心を尊重しよう。そして、此方の本心も見せよう……歩きながらが良いと思うね。さぁ、皆行こうか」
ウサンタールさんが視線を向けると、団長は軽く会釈をして地下3階への階段を降りていった。
「じゃあ、我々も降りようか」
ウサンタールさんは俺の軽く肩を叩き、降りるように促す。俺はそれに応じて並びながら階段を降り始めた。
「して、話は変わるのだが……今、この街にある冒険者一家でここの下に降りられるのは何家くらいあると思うかね?」
「100……は多すぎでやすかね。50〜60くらいでやすかい?」
「20だ。Aが1つ、Bは0。Cが3つ。あとの16はDかE」
「それは……極端な数字で」
「その理由がこの先にあってな。まぁ、これから真面目に毒空団一家でやっていく事になるならば、必ずここは通る事となる。遠慮は無用。見ていってくれたまえ」
ウサンタールさんが左手で奥を指し示すと、先行したアンコロと団長が左右に割れて、やけに装飾の凝った重厚そうな扉への道を作った。
「ウサンタールさん、鍵を開けて下せぇ」
「うむ」
アンかコロの声に答えてウサンタールさんは扉の取手に手をかけた。




