第16話 鈍色の宝箱
水路を流れ行くジャイアントカモノハシを見送った俺は帰り支度を始める。
もう此処には用はない。
そう思っていたからだ。
「何処に行くのかね? チング君」
振り返ると、ウサンタールさんが何かに足を乗っけて立っており、髭をワサワサと触っている。
足を乗せているモノを見るとそれは紛う事なき宝箱だった。
「もしかしてそれは……」
「いかにも、教てやると言ったじゃないかチング君。これは宝箱だ。迷宮の宝箱は地上のそれとは違うから、じ〜っくり教えてやろうではないか」
ウサンタールさんは意地の悪そうな顔で片目をパチリと瞑った。
これは、やると言わねば良かった……のか?
一抹の嫌な予感を振り切ってウサンタールさんの足の下にある宝箱へと向かった。
「さぁ教えてやろう」
長くなるのを察知したのか、他の一味は車座になって雑談を始めた。
「宝箱というのは、格がある。低い物は木箱みたいな物や石の箱だが、高い物はやたら硬い金属で出来ておる。その全てに開けたら発動する罠が仕掛けられていて、格が高い宝箱程凶悪になっておる。今日は木箱みたいな奴の解除方法だな」
「へぇ」
「まず、箱の構造だ。箱は底と呼ばれる箱の底部分と、箱に被さる冠と呼ばれる部分に別れておる。その接続部には蝶番が付いていて、片側のみが開くという訳だ。まぁ、普通の化粧箱だ」
「へぇ」
「で、箱の開けたら発動するという事は、開け口の何処かに仕掛けがあるのだ。その罠を発動させる糸が張られているという事。まず、その箱の隙間から仕掛け糸を探すのだ」
「へぇ」
「まず、箱の隙間に女の長い髪の毛を入れて、左右から軽く引っ張りながら進めていくと、中央に糸が触れる事がある。これは跳ね石の罠だ。開けた途端にその糸が切れて、バネに仕込まれた石が飛んでくる」
「……へぇ」
「今、正面を避けて開ければ避けられると思っただろう」
「違うんで?」
「ハッハッハ、それで避けられるなら罠解除技能はいらんよ。これは魔法の追尾付きだ。余程でなければ開けた者に当たる様に出来ている。当たっても、余っ程当たり所が悪くない限り死にはせんが」
「当たりどころで死ぬなら大変でさ」
「であろうな」
賊騎士は鼻を啜って笑った。
「で、箱の端に罠の糸が張ってる場合は“そよ風袋”って罠だ。開けた途端に魔法の風が吹いて、周りの灯りを根こそぎ消されてしまう」
「へぇ」
「夜目が利かん奴は灯りがなければ冒険は続けられぬ。松明とかに灯りを頼りきっている奴にとっては割と厳しい罠だな」
「アッシは夜目が利きやすから問題ないでさ」
「だが一味全員となればそうはいかぬ。常に全員夜目が強い奴らだけとは限らないからな。覚えておけ」
「へぇ」
「続けるぞ。どちらも解除方法は箱をほんのチョッピリだけ開いて、女の髪の毛を中に通してだな、罠の糸を反対側に引っ張れば……良しだ」
「他にも罠の種類はあるんで?」
「箱を開ける際に、箱のフチに毒針や仕込み刃が仕掛けられている事もあるが、その辺は警戒しておけば掛かる事もないかろう。あと、箱を開けたらクラウンの裏側に口が貼り付いている“底無しの唇”という罠がある。これは見ただけでやる気を吸い取られるから結構な痛手だ。判断方法は箱を上から叩いてみて、真ん中だけ妙に音が変わったら要注意と言うところだな」
「へぇ」
「……」
「…………」
その他にも色々な罠の判別方法を教えて貰った。格が1番低い宝箱に入っているのは木の棒、ボロ布や革の切れっ端、木彫りの釦、良くて金属の鋲等のガラクタと少量の貝貨だそうだ。
その場合は打ち捨てるほうが結果的に得をすると言っていた。
かの宝箱は格が2番目に低い宝箱だったので、硝子の小瓶と銅貨が3つづつ入っていた。
罠はそよ風袋。
解除は失敗。
フーッという冷たい風が股下を通っていき、行き場をなくして消えた。
被害がないのが幸いだったが、変な罠だったら大怪我する事もある。実際肝は冷えた。
「まぁ、興味があるならば家に来るがいい。少し難しいが、練習用の罠箱が1つある。それを使わせてやろう」
賊騎士は暗闇に歯を浮き上がらせながら笑った。
ごめんなさい。仮に3ヶ月後に更新状態で放置してて仮のママ出ちゃいました。ウサンタールさんの口調が大分変わってます。前はべらんめぇ口調だったんすよ……。修正済




