第15話 決戦! カモノハシビースト!
「フハハハッ! 行くぞアンコロモチよ! エックス斬りィ!」
「モチは居ませんってばぁッ! ウサンタールさんッ!」
「3人なんでXにならないッスよぉ!」
前衛の賊騎士ウサンタールさんは強かった。
今も第2階層の親分格のジャイアントカモノハシを前衛のアンとコロとの見事な連携で斬り刻んでいる。
ジャイアントカモノハシは元々そんな機敏な動きをする魔物ではないと事前に長々とウンチクを垂れていたが、少なくとも俺よりは速い。
そして、小さめの人なら丸呑み出来そうな位にはデカい。そんな魔物を相手にしながらも、ふざける余裕があるから大したものだ。
多分、前衛がウサンタールさんじゃなくて、アンコロモチトリオで戦ったのなら負ける事もある……と思う。
それが、カレハ団長や猛炎のラファリーさんの援護もなく圧倒しているのだから、彼の技量は……凄まじい。認めたくはないが、相当な強さだ。
そして、ウサンタールさんは賊騎士だ。鍵開けや罠鑑定などの盗賊技能のある前衛戦士にして乗馬技能社交能力等の貴族の嗜みを持つ広汎技能保持者。
それでいて前衛戦闘専門のアンコロモチよりも強いというのは、どれだけ強さの格が違うのか……想像もつかない。
「これで終わりじゃーッ!」
弱り切っているジャイアントカモノハシの脳天にウサンタールさんの刺突剣が深く突き刺さる。
カモノハシの両腕を抑えるアンコロコンビがいてこそのトドメとは言うものの、実質単体で戦っても勝てるんじゃないかな? というくらいには……強い。
ウサンタールさんがね。
額をブち抜かれたジャイアントカモノハシはバッチャン! と大きな音を立てて、ぬかるむ地面にひれ伏した。
「やはり、戦戦賊魔魔斥というのは安定するの。戦って気持ちが良いわい」
刺突剣がその身に付いた血を振り払う音が響く。
「アッシは何もしてやせんが」
「フフン、見付けたのは君ではないか」
「そうよ、ウサンタールさんよりも早く敵を見付けるなんて優秀な斥候だわ」
「いえ、ウサンタールさんは複合職で御座いやすので……」
「いや、それでも実に優秀だ。3ブロック先の獲物を特定するというのは、斥候能力としてはかなりのものだ。君は伸びるぞ……将来は吾輩よりも強い賊騎士になるやも知れんな! ウハハハハ!」
「勘弁してくだせぇ……」
何というか、本当に掴み所のない人だ。
俺は、相手に悪意があればその感情を感じ取れるのだが、何故か先程の指輪の悪戯は見抜けなかった。善意でやっているのか、本気で俺の為だと思ってやっているのか……。
よくわからないうちは少し距離を取るのが理想だな。
「……ところでチング君。宝箱に興味ないかね?」
そう思った直後、ウサンタールさんが後ろから肩を組まれる形で伸し掛かってきた。厚い革手袋に覆われた右手が顔の横でぶらぶらと揺れていて少し気味が悪い。
「もし、君が良ければ宝箱を開ける為の講義をするんだが」
耳元で囁かれた。
宝箱を開ける為の方法を教えてもらえる……?
という事は、ただの斥候から“盗賊”技能持ちの上級職へ格上げされるという事。
「ウサンタールさん、そのお話は解体の後でして下さらないかしら?」
「おっと、仕事の邪魔をしてしまったようだな。失敬」
「では、解体させていただきやす」
俺は見た事もない謎の生物、ジャイアントカモノハシの解体をカンで進めつつ、先程の話を反芻する。
俺が盗賊になりさえすれば……、斥候技能や解体だけでなく新しい武器を手に入れる事となる。となれば、毎日銀貨以上の収入も夢ではない。前回はワニを解体しただけで銀貨を得られたのだ。
今回のカモノハシビーストはほぼウサンタールさんの力による討伐だから、毎回のようにはいかないが、それでもどれだけの金額が手に入るかわからない。
……ドクン。
上半身の力が抜け、下半身に満ち満ちる。
解体する指先は揺らぎ、視界はぼやけ、幻聴が聞こえる。
【……嬉しい……また来てくれたの?】
腰に違和感。
あかぎれだらけの細腕が腰に巻き付いている感覚。
熱い身体への冷ややかな唇の刺激。
迸る水音。
盛り上がる肉。
絶頂を迎える際の炸裂音。
恍惚。
痺れ。
…………。
いかん、邪な考えが止まらん。
仕事……仕事に集中せねば!
◇ ◇ ◇ ◇
「ウサンタールさん。戦ってて気になったんすが、左利きでしたっけ?」
「そういや、何か変っスね。右手怪我でもしましたか?」
「ん? 鋭いなアンコロモチよ。だが、吾輩は右利きである。なあに、これくらいの相手なら左手で充分であるぞ」
「だからモチはいねーんですってば!」
「利き手じゃなくてあの強さは反則っスよ!」
……?
しょうもない雑談に違和感を感じながらも、無事解体を完遂した。
必要な素材が少ない獣は楽で良い。
主な素材は皮。これが錬金術で作られる内容量が増える収納鞄に使われるので高く売買されている。後は嘴と爪や水掻きが素材として使われるが、肉はさして美味くないのでわざわざ地下から持ち帰るのは憚られるそうだ。骨も特に注文がなければ取らないらしい。
という訳で、主として売れる部位を解体すると、四肢を落とされた丸々とした肉塊が残った。
それを、手近にある水路へと落として流す。
別に絶対流す必要もないが、遺体が腐ると次に来た時に臭いので、暗黙の了解として流すそうだ。
南無。
我々は水路を流れる獲物の成れの果てを見送った。




