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月華姫④

 グランルンド国王は、その親書を読んで大きく顔を顰めた。

 差出人はラスペード王国。内密に話したいことがある、訪問も内密にしたい。歓迎の準備はするな。そんな内容だった。


「なんとも一方的な……」


 二人はなんともう既に出国しているという。

 そもそも話の内容すらさっぱり分からないが、どうやらたいへん重要な内容らしい。できれば同席は王族だけに済ませてほしいと書かれている。

 訪問するのは第二王子とアルヴィエ公爵だという。


「第二王子は……確かセレーネに縁談を持って来ていたな。……うん?アルヴィエ公爵は確か元第三王子だったな。確か国王とともにこちらに一度訪れていた筈だが……」


 国王と第三王子がともに王宮に訪れる目的とは、一体何だったか。

 うーんうーんと考えてみるが、7年も前のことだ、ぱっと思い出せない。


「仕方ない」


 よっこらしょ、と立ち上がり、国王は資料室に昔の資料を取りに行こうと執務室を出た。


 折角わざわざ調べたのに特に重要なことでもなく何ともがっかりした国王は、帰りがけに王太子とすれ違った。


「ああ、そうだ。少し話がしたいんだが、時間を作れ。仕事の話だ」

「二人きりで、ということでよろしいですか?」

「……いや。王族全員にしよう。貴族は呼ぶな」

「分かりました。私から呼んでおきます」

「頼んだ」


 セレーネを呼ぶかどうかは迷った。だが王妃と王子二人に知らせておいて王女に知らせないというのも良くないだろうと思い、国王はセレーネも呼ぶことにしたのだ。

 王太子は宰相も呼ばないとは珍しいなと首を傾げつつ、その場を後にした。




「――という訳だ」


 国王が手紙を見せると、集まった王族は沈黙した。


「これはまた、人選が微妙ですね」

「どちらかだけならばともかく、王子と公爵が二人で、というのもあまりないですね。特にこの公爵は外交要員という訳でもないですし」

「それで、誰を同席させるかなのだが……」


 国王がすっと視線を一周させる。


「私は決定ですね」


 手を挙げたのは王太子だ。国王も王太子は同席させるつもりだったため、すぐに頷いた。


「兄上がいるなら私は要らないでしょう」

「私も必要なさそうですわね」


 言葉を発したのは第二王子。それに追従してセレーネも首を振った。


「私も必要ないでしょう。あちらも男性二人なのですからこちらも男性二人で対応するのがよろしいかと」


 王妃も続ける。

 この王妃、なかなか頼りになるので国王的には一緒にいてくれた方が心強いのだが、なかなかもっともな言葉だったので国王は頷く他なかった。


「ですが宰相は同席させずとも宜しいのですか?」


 王太子の発言に、再び一同は沈黙する。

 手紙には『できれば』と書かれている。つまり貴族を同席させても一応問題はない訳で。


「――あまり公表できることでもないのだろう。宰相を信頼していない訳ではないが、今回は見送る」


 悩みつつも国王は否を返した。アルヴィエ公爵が、王族ではないが王族に連なる者だということも、国王の判断に影響を及ぼした。宰相の家にもセレーネとの婚姻を避ける程度に王族の血は入っているが、王族に連なるとは到底いえない。


「できる限り会談の内容はお前たちに共有するつもりだが、内容によっては秘匿せねばならんこともあるやもしれん。分かっているだろうが、了承しておいてくれ」

「勿論です」


 頷きで肯定を示す。

 とはいえ、国王は基本的には全ての情報を王族には開示するつもりであった。そもそも王族なら誰でも同席して構わないと先方が言っている以上、王族に共有するのを止める権利はあちらにはない。


「話は以上だ。では解散」


 比較的公務の少ないセレーネや第二王子は全ての執務を終わらせているが、国王や王妃、王太子はいつも通り残業だ。サボっていると冗談抜きで数徹になるため、号令をかけた国王を含め三人は一目散に部屋を出て行った。


「私も公務を増やした方がいいのかな。兄上に子ができるまでは臣籍降下の予定はないし、しばらくは王族に残ることになるだろうし……」


 その背を見送りセレーネの下の兄である第二王子がぽつりと呟く。


「確かにお父様もお母様もお兄様も、とても忙しそうですものね。私もお母様のもので手伝えそうなものは手伝おうかしら」

「セレーネは今のままで十分だよ!私達は可愛い可愛いセレーネに仕事なんてさせたくないんだ、王族である以上何も任せない訳にはいかないというだけで」

「まあ、戦力外だとはっきり仰って下さればよいものを」

「何を言っているんだ。セレーネは賢いから戦力としては十分なんだよ。単に私達が嫌なんだ」

「お世辞は結構でございます」


 ぷうと膨らんだセレーネだが、兄王子の言うことは正しい。セレーネは正しく優秀で、王妃たりうる人材。戦力としては十分すぎる程だった。

 セレーネの家族は美しすぎる彼女に仕事をさせなければならないことに嘆いたが、きちんと王女としての執務を任せているあたりきちんと王族の責務を理解していた。


「お世辞ではないよ、可愛いセレーネ。他国できちんと王妃としてやっていけるような教育を父上がお前には施している。単純に蝶よ花よとして育てている訳ではないからね」

「それは分かっていますが」

「ならいいんだ」


 まるで恋人のように兄王子はぴったりとセレーネに寄り添い腰に腕を回し、その頬にキスを落とす。

 それが日常であるためセレーネは照れることなくそれを受け入れた。ちなみに当然上の兄である王太子も同じことをしてくる。

 柔らかいセレーネの髪を手で梳き堪能した兄王子は、すっと立ち上がる。


「じゃあ私は書庫に行ってくるよ。また後でね、セレーネ」

「お待ちください、私も同行して宜しいですか?ラスペード王国のことを復習しておきたいのです」

「ん、私と同じ目的だね。なら一緒に行こうか」

「はい」


 兄王子が差し伸べた手を取り立ち上がったセレーネは、そのまま腕を絡ませる。

 二人の姿は掃除の行き届いた、けれどどこか埃っぽく古いインクの香りの漂う書庫へと消えていった。

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