その1 潜入するのです
初投稿です。
ハロウィンなので、魔女とか猫とか、ベタなキーワードで書いてみました。
色気もバトルもありませんが、楽しんでいただけると幸いです。
*本日(2022/10/31)中に、全6回で完結予定。
「次のターゲットを決めたわ、ミモザ。」
ご主人様は微笑んで、一枚の紙を机に広げる。
呼ばれたミモザは机に飛び乗ると、ターゲットの情報が書かれた紙と、フードの下の顔を見比べる。
その人はゆったりと椅子に座り、無造作にフードを取り払うと、美しく豊かに波打つ、濃紺の髪が背に流れた。
神秘的な紫の瞳で私を見ながら、優しく頭を撫でてくれる。
私の主、魔女マルガリータ様。
身寄りのない私を引き取って、育てて下さった方。
美しく優しい、私の恩人。
この方の喜びが、私の幸せ。
この方の笑顔が、何よりのご褒美。
他の何物が敵になっても、主がいて下さるだけで良い。
今回も、私すっごく頑張るのです!
紙に書かれた、ターゲットの情報を確認する。
名前:アレキサンダー・ギムレット
年齢:26歳
職業:魔物狩人
髪:明るい金髪
瞳:深い青
その他:シャンディ州ガフ村の外れに一人暮らし
……金髪好きですね、ご主人様。
心の声を秘めつつ見上げると、魔力で暴くかのように読み取り、
「王道でしょう?」
いい感じに喉をくすぐられて、思わずゴロゴロと鳴らしてしまう。
ああ、なんて良い心地。少しトリップしてしまいました。
ご主人様の指先、ホントに絶妙なのです。
「頼んだわよ。」
私を射抜くかのような目で見据えると、静かに席を立ってドアを開ける。
少し緊張しながら、ご主人様に見送られ、目的地へと駆け出した。
ガフ村なら、けっこう近い。
見た目は普通のネコでも、魔女様の使い魔である私は普通じゃないのです。
走るのだって馬より早いんだから、日暮れ前にはターゲットさんのお家に着けるのです。
暗い森を抜けて湖を通り過ぎ、村を2つ越えて川を渡る。
そうして見えてくるのが、ガフ村。
集落を抜けて畑の横を通り過ぎ、外れにあるポツンと一軒家がズバリ、ターゲットの家!
家の周囲を確認し、無人であると判断。
さっそく、使い込まれたベタな技、ケガした小動物作戦を開始。
家から少しだけ離れた道端に蹲り、ターゲットであるアレキサンダーの帰りを待つ。
自宅近くでケガをして動けない可哀そうな猫を見たら、普通連れ帰って手当てするものです!
注意を引いて潤んだ瞳で見つめ、か細く鳴けばカンペキと言うもの。
それでも無視されるようなら、ご主人様のターゲットとして、ふさわしくありません!!
謎の自信満々で、若干鼻息荒く気合を入れる。
幸い、いくらも経たないうちに、近づいてくる人の気配を感じた。
ゆるやかな坂を上ってくる人物の容姿をさりげなく確認し、間違いないと断定する。
ミモザは、草の陰で大げさに鳴いて、じたばたと居場所を気づかせるように音を立てた。
「何かいるのか?」
声のした方を覗き込み、特に警戒する様子もなく、やってきたアレキサンダーと目が合った。
服装には全く気を配らないタイプなのか、着古したシャツにズボンと軽装。くたびれたリュックのような鞄を背負っている。
ありふれた「村人A」仕様だと言うのに、なんとも華のある容姿だった。
サラサラの金髪、切れ長の深青の瞳。
少しぶっきらぼうな響きがするものの、耳元で囁かれたら、腰が砕けそうな美声。
…ご主人様、さすがのチョイスです!これならきっと、素晴らしい胸キュンを…
「なんだ、猫か。迷子にでもなったか?早く帰れよ。」
うっとり見惚れたミモザとは対照的に、興味を失い、アッサリと踵を返して、家に向かおうとするアレキサンダー。
慌ててミモザは、大声でミャーミャーと訴える。
(この薄情者!いたいけな小動物がケガして動けないのに、見捨てるとかあり得ないのです!!)
無視して家に入ろうとしたアレキサンダーだが、あまりの大声に、何やら責められるような意思を感じて、面倒そうに引き返した。
「……動けないのか?まぁ、こんな家の近くでケモノに襲われでもしたら寝覚めが悪いし、うちに来るか?」
ミャア、と肯定の意思表示をして、ケガして歩けない、とアピールする。
しばらくの沈黙の後、小さくため息が聞こえたような気がするけど、ミモザを抱き上げて、連れ帰ってくれた。
読んでくださって、ありがとうございます。
「その2 作戦開始なのです」9:00投稿予定です。