出会い
その光る物が何かを感知する前に、紗和は後ろに強く引っ張られ、地面に倒れ込んだ。
身体の痛みに耐え、何とか起き上がると
別の男が紗和の前に立ち、サラリーマン風の男が包丁を持つ手を掴んでいた。
先程の光る物の正体が包丁の刃だったと気が付いた時...紗和は背筋が凍った。
あの包丁で、今自分は刺されそうになったのだと。
動く事も出来ず、紗和はただ前に立つ男の背中を見つめる。
「人の良心につけ込んで...胸くそ悪い野郎だなぁ。こっちは仕事終わりだってのに、仕事増やすんじゃねぇよ」
「だ、誰だお前!?」
それからはあっという間だった。
包丁を持った相手に恐れる事なく、紗和を守ったその男は華麗に背負い投げを決めた。
そして、犯人の男の目の前にそれを見せる。
「警察でーす。殺人未遂の現行犯逮捕ね」
その後、警察と名乗るその男の連絡でその場に数台のパトカーがやって来た。
犯人の男が警察に囲まれ、パトカーに乗せられる。
ドラマでしか見たことがないその光景に、紗和は息を呑んだ。
パトカーが去った後、紗和を助けた男がこちらにやって来る。
「悪いんだけどさ、事情聴取協力してね」
恐怖でまだ足取りがおぼつかない紗和の目の前に、大きな男性の手が差し出された。
事情聴取は最寄りの警察署で行われた。
刑事ドラマで出てくるような取調室に、紗和は本当にこんな感じなのかとキョロキョロと辺りを見渡す。
紗和の向かい側には、先程の男がパソコンを構えて座った。
「あー...どうも。沢木です。よろしく」
「...はい」
男の名前は沢木というらしい。
紗和はこの時初めて沢木の顔を見た。目はくっきりとした二重、鼻も高く、かなり整っている方だと思う。
...ただ、髪はパーマをかけてる訳ではなく、明らかに寝癖を放置している。口周りも髭を生やし、服も薄汚れて清潔感ゼロだ。
悪いが、人としての魅力に欠ける。
「早速だけど、君の名前は?」
「清宮紗和です」
「高校生?」
「はい。高3です」
沢木は紗和の情報をパソコンに打ち込んでいく。
仕事でよく使ってるのか、あっという間だ。
「親御さんに迎えに来て貰うから、連絡先教えて」
そして、紗和の前に紙とペンを差し出されるが...紗和は俯いたまま。
「ん?どうした?」
「...連絡しないでください。惨めな思いしたくないです」