褒め言葉
コンビニ弁当を2人で平らげた後
「22時まで塾にいたのは分かったけど、その後の事...事件に遭遇するまでの経緯をなるべく詳しく教えて」
事情聴取を始めるが、紗和は柔らかくなった表情を再び強張らせ口を詰むんでしまった。
明らかな、動揺だった。
「...嫌な事を思い出させて申し訳ない。ゆっくりで、良いから」
被害者に事情聴取する時に大抵口にする言葉。
謝るなら無理に聞くなよ、と怒られた事もあるが...沢木自身経験があるからこそ、申し訳ないという言葉は自然と出てきてしまうのだ。
「...私...殺されそうになったんですね...」
「...そうだ。介抱しようとした所を、な」
「...自分がまさか、事件に巻き込まれるなんて...思ってもいませんでした」
これまで話をしてみて、交友関係も広くなさそうな印象を受ける紗和からこの言葉を聞くのは、意外だった。
家族と良好な関係を築けてないと感じてる子供は、周りへの警戒心が強い。
皆が皆そうとは言い切れないが、人懐っこい性格の人間は少ないだろう。
「今の時代、誰でも事件に巻き込まれる可能性がある。男でも痴漢に遭うし、幼い子供でも殺されるからな...女子高生なんて、尚更だ」
嫌という程に全国で事件のニュースが絶えない。
今回はたまたまだったが、事件の前にその場に駆け付けられるとも限らないので、危険察知の力だけは身に付けて欲しい。
「こんなご時世に夜道を1人で歩いて、無防備に男に身体を預けようとは...
利口そうな顔をして、意外と馬鹿なんだな」
「...はぁ!?」
紗和は怒ってるようだが、所詮女子高生の睨みなど怖くも何ともない。
「まぁ、そう怒るな。...寧ろ、褒めてるんだよ」
苛められたくなくて、自分を守る為。
面倒な事に巻き込まれたくなくて、先を急ぐ為。
自分が目立ちたくなくて、周りの流れに合わせる為。
見て見ぬ振りをする人間が多いこの世の中で、紗和は
「見知らぬ人が苦しんでるのを見て、純粋に助けようとしたんだろ?...優しいじゃねぇか」
余計な感情に囚われず、正しい事をした。
「そういう人が傷付くのは、許せねぇよ」
沢木は心から思った。
「無事で良かったな、清宮紗和」