少しでも
「22時まで塾で勉強した私には何処かでご飯済ませろ、って言うくせに...遊び回っている弟が22時過ぎても帰らないって騒ぐ親ですよ?
迎えに来るわけありません」
弟がそれだけまだ目を離せない歳の場合や、母親が紗和をそれだけ信用してるという事も考えられる。
それだけ聞けば、親が迎えに来ないという根拠には欠けるが...
紗和の何処か諦めたような目が。
何かを思い出してるのか、まるで言いたい事を我慢して言葉を呑み込むような姿が。
それらを見て、紗和がそう思い込むそれなりの理由があるのだと沢木は思った。
「...分かったよ。俺も家族とは相性最悪だったから、こういう時に連絡入れられたくない気持ちも理解出来る」
「だが...こんな夜道を1人で帰らせる訳にもいかないから、事情聴取が終わったら俺が家まで送るよ」
本当に迎えに来ないような親ならば...そう思いたくないが、紗和の言葉を無責任に否定も出来ない。
「清宮さんさ、まだご飯食べてないだろ?」
彼女の心の傷が、少しでも癒えれば。
満足に食事を摂れなかった頃、求めていた食に辿り着けた感動は今でも忘れられず、食事は沢木の
元気の源である。
そして、後輩の高橋に、沢木の行きつけの店のハンバーグの持ち帰りを依頼した。
が。
「おま...これコンビニ弁当じゃねぇか!俺がリクエストした奴は!?」
「無茶言わないでくださいよ!この時間なんですから、そもそも店閉まってましたよ!コンビニで我慢してください!」
「ちぇっ...」
お酒にも辿り着けない上に、食べたい物も食べられない。
某芸人がよく言っているが、何て日だ。
...決して、コンビニ弁当が悪い訳じゃない。ただ、沢木の気分ではなかっただけだ。
だが、紗和がコンビニ弁当を夢中で食べる姿を見て、沢木はまぁ良いか、と思い直す。
紗和の表情がほんの少し、柔らかくなったから。
文句言って悪かったよ、高橋。
「最近の高校生って何してんの?やっぱSNSか?イン○タとか」
「...まぁ。私はやってませんけど」
「清宮さんは、何してるの?」
「受験生なので勉強です」
「いや、それ以外でよ...この流れで、分かるだろ」
「読書とか、ですね」
「...典型的な優等生だな。もっとJK楽しめよ」
「いやいや。受験生ですってば」
こんな真面目に生きている人間でも、理不尽な事に振り回され傷付く世の中に、うんざりする。
それでも懸命に生きなければならない。
「沢木さん、寝癖直さないんですか?」
事件で会った時よりも口数も増え、表情の変化も大きくなった紗和の姿を見て
酒を我慢して警察官である事を選んで良かったと、心から思った。