紗和の家族
紗和は生まれてすぐに母を亡くし、6歳の時に父を交通事故で亡くした。
それ以降、父の姉にあたる伯母の陽子の家
清宮家で育てられた。
紗和も18の年になり、すっかり住み慣れた自室のカーテンを開け、日差しを浴びながら背伸びをする。
白い壁には≪○✕大学合格!!≫の目標を掲げ、塾のスケジュールがびっしりと書かれたカレンダーが貼られている。
大学受験の年だ。特にやりたい事があるわけではない。
ただ、就活に有利になりそうないい大学に入って、いい企業に就職するという漠然とした考えだ。
...自分でもつまらない人間だと思うが、人並みに生きれれば、満足だった。
紗和は制服に着替え1階に降りると、朝食のいい匂いが漂う。キッチンの扉を開けると、陽子が3人分の朝食を用意していた。
「おはよ」
陽子が紗和に気が付くと
「...おはよ」
無愛想に挨拶を返し、背を向けてしまった。...これが日常だ。
紗和の父と陽子は仲が悪かった。理由は知らないが、父の葬儀で初めて陽子に会った程、2人が顔を合わせる事がなかったのだ。
母を既に亡くしていた紗和に他に身寄りがなく、仕方なく陽子が紗和を引き取った。
父の娘なのが気にくわないのか、陽子はずっと紗和に冷たい。
「今日塾だっけ?ご飯は何か食べてきて」
「...分かった」
それでもここまで育ててくれた恩はある。陽子に口ごたえする事も出来ない。
やがて、慌ただしく足音が聞こえてきて
「おっす」
義弟の明が入ってきた。
「おはよ、明」
実の息子に対し、陽子は紗和の時とは打って変わって柔らかく微笑む。
...その差別化も今更だ。紗和は見て見ぬ振りをして味噌汁を啜る。
「あら、明。またピアス増えてない?」
「あ、気付いた?かっけーだろ?」
「うん、まぁ...個性的ね」
明は真面目な紗和とは対照的で、髪は金髪に染め、ピアスを幾つも着けたバリバリの不良だ。
だが、母親を無視したりしないだけ可愛らしい。
「姉ちゃん、ウインナー頂戴!!」
紗和の返事を聞く前に、明はもう既に紗和のウインナーを口に運んでいた。
「明はよく食べるわねぇ」
そんな明を見て、陽子は笑う。
紗和は昔から言われ続けてきた。
「お姉ちゃんなんだから、許してあげなさい」
姉という立場だけで我慢を強いられ、好き放題の明に怒る事も出来ない。
家族って何だっけ。
紗和は毎日そんな疑問を抱き、生きていた。