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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

じゃがいもと猫

作者: めんごろう

「お前、俺みたいだな。」

少年は泥団子のような猫にそう声をかけた。

土砂降りが明けた、じめじめとした空気と少年と猫。

少年もまた泥だらけであった。背負っていたランドセルも泥にまみれている。

同級生の悪ガキ、(たけし)(しゅう)によって水たまりに突き飛ばされたのだ。

少年は学校ではじゃがいもと呼ばれていた。

いがくり頭にそばかすがじゃがいもの見た目を彷彿とさせ、彼の実家がじゃがいも農家であったこともそのあだ名を決定づけるものになっていた。

じゃがいもと呼ばれ、からかわれ、いじめられ泥団子のようになる日々。

自分でも畑に埋もれているじゃがいもみたいだと思っていた。

「うちに来るか?」

少年は親近感を覚えた猫に問う。

猫の方も少年-じゃがいもの意図がわかったらしく足にすり寄った。

「ははっじゃあうちに来て一緒にお風呂に入ろう」

泥団子2つ田んぼの畦道を歩きじゃがいもの家へ向かった。


「大人しくしていろよ、かあちゃんにバレたら大変だからな」

許可なく連れ帰った訳だから、母親にバレたら元の場所に戻してこいと言われる可能性が高い

じゃがいもはそう考えていた。

しかし、猫はそんな事を言われるまでもなく静かにしており、にゃんとも鳴かなかった。

こちらの意図を酌める辺りかなり賢い猫なのだろう。

そーっとお風呂場まで直行し、誰にも見つからずたどり着くことができた。

まずはじゃがいもがシャワーを浴びる。お湯の暖かさにじゃがいもの顔が緩む。

「お前もきれいにしてやらないとな」

そう言って猫にシャワーを軽くかけた後、じゃがいもは石鹸を泡立て猫をゴシゴシと洗っていく

「そう言えば猫って水とか体にかかるの嫌がるって聞いたけどお前はそんなことないよな」

確かに猫は嫌がるどころか少し嬉しそうにしているようにも見えた。

じゃがいも自身も全身を石鹸でざっと洗い風呂場を出る。

「俺はこんな頭だから普段使わないんだけど」

そう言って棚からドライヤーを引っ張り出し猫を乾かしてやった。

するとどうだろう、つやつやでふわふわ、長く美しい毛並みの気品高い猫になったではないか。

「なんだよ。仲間だと思ったのにお前」

綺麗な姿になった猫に少し仲間外れの気持ちを抱きながらもじゃがいもは二階の自分の部屋に連れて行った。


「猫、長い毛…ラグドールじゃないな」

じゃがいもは自室のパソコンで猫の種類を調べていた。

「あった、これだ!」

猫はメインクーンという種であった。

「うちで作っているじゃがいもの種類みたいな名前だな…そうだ名前、お前のことなんて呼ぶか…」

少し悩んだ後、じゃがいもは

「メイクはどうだ?」

じゃがいもは猫に直接聞いてみる。

猫は少し、戸惑ったような強張った仕草を見せたがじゃがいもの足に頭を擦り付けた。

恐らくOKだという意思表示だろう。

安直な名前ではあるが、じゃがいもの年齢を考えて仕方ないと受け入れたのかもしれない。

「じゃあ、これからもよろしくなメイク」

小さな声でメイクはにゃあと答えた。


「豊浩ッー!アンタねーー!! 家を泥だらけにするんじゃないよー!!」

じゃがいも、豊浩(とよしろ)の部屋のドアが勢いよく開けられた。

開けたのはじゃがいもの母であった。

慌てるじゃがいも。突然のことだったので、メイクを隠すことはできなかった。

ドアは必ずノックしてくれって言っているのに…そもそも泥の後始末を怠ったのがまずかった。とじゃがいもが思いを巡らせると、メイクがじゃがいもの母の目に留まった。

「綺麗な猫ね」

じゃがいもの母がそう言葉を発するとじゃがいもはすかさず、

「かあちゃん、こいつうちで飼えないか?出会ったとき泥だらけでさ、恐らく飼い猫じゃないと思うんだ。」

と交渉する。

じゃがいもの母はメイクをじっと見る。

じゃがいもの住んでいる町はとても小さく町民は全て顔見知りだ。

しかしこんな猫を飼っているという話も聞かないし、最近この町に滞在したという人間もいない。だからこそおかしい。この猫はどこから来たのだろう。

そもそもこんな気品ある猫が野良だというのも違和感があった。

「うーん…少なくともこの町にこの子の飼い主はいないだろうし、一旦はうち預かりということで。」

「えっいいの?」

母の言葉にに驚くじゃがいも。

「まあね。こんな綺麗な子ほっぽりだすわけにはいかないし。でも念のため近所にチラシをまいとこうか。あと、インターネットか何かでも飼い主がいないか探してみてくれる?」

「わかった!」

じゃがいもは笑顔で答えた。

母が部屋を出た後、じゃがいもは早速SNSでメイクの写真を拡散、飼い主がいないか呼びかけてみた。

「本当の飼い主がいるなら、お前だって帰りたいよな」

そうなってしまっては本当は寂しいとは思いつつも、やはりメイクの幸せを願うじゃがいもであった。

その晩、メイクには猫缶が与えられ、じゃがいもとメイクは一緒の布団で眠った。


メイクを拾った翌日、じゃがいもは学校の帰り道で武と秀に絡まれていた。

武は小学生とは思えない2mを超える巨躯、秀はいかにもなインテリを思わせる眼鏡をかけている。

「おい、じゃがいも、今日は綺麗じゃねえか。じゃがいもらしく泥だらけにしてやるぜ」

突き飛ばそうとしたところじゃがいもと武の間に小さな影が飛び出してきた。

小さな影はメイクだった。シャーっと武と秀を威嚇している。

「なんだお前は」

武の手がメイクに伸びる。

「やめろ!!!」

その声と共に武の体が3mほど吹っ飛び大木にぶつかった。

ぶつかった大木は10mほどあったが衝撃で縦に真っ二つに裂けた。

「そ、そのスピード、威力は寸勁ッ!!じゃがいも貴様ッ八極拳を体得しているな!!!」

秀が声を荒げる。

「そうだよ。そうこなくっちゃなあ。ようやく本性を出したな。じゃがいも」

ゆらりと武が立ち上がる。

「お前から圧倒的な強者の臭いを感じていた。少し突っつけば闘えるかと思っていたが、一向に乗ってこねえ。それが漸くだ!」

武はボクサーのような構えをとる。

「武が構えた…それほどの相手ということか。」

秀が唾を飲む。

「お前を壊してしまうのが怖かった。だから今までのことは受け流してきた。」

「しかし、今俺には守護るべき存在がある。お前の命を奪うことすらもう恐れはしない!!!」

じゃがいもの脚が大地を穿つ。

「完璧な震脚だ。じゃがいもは今、大地と一つになっている…」

秀はその美しい震脚に心を奪われていた。

「秀…一つ誤解がある。俺は確かに八極拳を体得している。しかし、それだけではない」

シッ!!!

武がジャブを放つ

それをゆらりとした動きで躱す。まるで酔っぱらいのように。

「その動きは酔拳!!!」

秀が続けて解説する。

「酔っているような動きではあるが、実際には酔っていない。酔った人間の動きを模倣した象形拳の一種だ。マズいぞ、武、そいつはお前のスタイルと相性が悪い!」

象形拳とは動物や人の動きを模倣したもので、有名なものだと蟷螂の動きを模した蟷螂拳だろう。

今、じゃがいもは完璧に酔っぱらいの動きで武を翻弄していた。


何故、じゃがいもがこのようなことができるのか。

それはじゃがいもの幼少期に遡る。

じゃがいもの家では受け入れていなかったが、他の農家では多くの中国人実習生を受け入れていた。

彼らが早朝に集まって楊式太極拳を行っていたところ、それを見ていたじゃがいもはその動きを模倣してあっという間に吸収、体得してしまった。

それを見ていた実習生達が面白がって、自分達の武術を教え込んだ。

太極拳、八極拳、形意拳、八卦掌、酔拳、蟷螂拳…その他数々の中国武術をスポンジのように吸収したじゃがいもは小学校に上がるころには中国武術そのものになっていた。

それと同時にじゃがいもは自分が恐ろしいものになってしまったことを、恐ろしい力を得てしまったことに気づいてしまった。

それ以降、じゃがいもは己の力で他人を傷つけないよう気を付けて生きてきた。

しかし今、じゃがいもはそれを全て開放して武にぶつける覚悟を決めた。


酔っぱらいが道に倒れるような動作ででじゃがいもは大の字に倒れる。

「まさか俺のことボクサーだと思って油断してねえか!?俺はボクサーじゃねえ蹴りだってあるんだぜ!」

そう叫ぶと武はじゃがいもの頭を踏み抜こうとする。が、そこにはじゃがいもは居なかった。

じゃがいもは片手で跳ね上がり、蹴りを武の頭めがけて天を衝く。

「あれは蟷螂拳の穿弓腿!!!」

武は本能でそれを首をひねって躱す。しかし、それが武にとって悪手となった。

じゃがいもの蹴りが武の顎先数cmを掠める。

それにより、武の脳が高速で揺さぶられた。むしろ直撃していたほうが脳へのダメージは少なく勝機があったかもしれない。

武の脳が機能停止した一瞬をじゃがいもは見逃さなかった。

くるっと着地した瞬間、凄まじい轟音の震脚と共にじゃがいもの掌底が武に突き刺さる。

しかし先程の寸勁とは違い武の体は吹き飛ばず、そのまま膝から崩れ落ちた。

「零勁・極」

震脚で大地から得た気をゼロ距離で相手の中に逃がすことなく全て流し込むじゃがいもオリジナルの必殺技である。

衝撃もすべて武の中を駆け巡り外に逃げない為、このような結果となった。

普通の人間なら絶命必死の文字通りの必殺技である。

「驚いた。これを食らっても意識すら飛ばないなんて。」

じゃがいもは感嘆の表情を浮かべた。

「鍛え方が違うんでな。だがもう指一本動かせん。俺の負けだ。好きにしろ。」

武は苦悶の表情の中に笑顔を浮かべながら言葉を絞り出した。

「別にどうもしないさ、メイクにさえ手を出さなければな」

じゃがいもは静かに答えた。

「あの、その…負けておいてなんだが、その…お前と仲良くなりたい」

武は何故か顔を赤くしながら言う。

「なんで?」

今までのこともあり、そんな提案も受けられないという気持ちで冷たい声で答える。

「実は猫に目がなくてな…かわいいなと思って」

ええ…とじゃがいもは心の中で少し引いた。

だが、愛猫をかわいいと言われて悪い気がしないというのもあったし、力関係ははっきりさせたので、今後の関係性で自分が優位になるだろうというのもあった。

「まあ、そういうことなら…」

とじゃがいもが答えると

「本当か!?」

とぱあっと武の顔が輝いた。

メイクのおかげで友人ができたじゃがいもは明日からきっと楽しい毎日が待っていると希望に胸を膨らませた。

~fin~

ふぃー疲れました。

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