0話「人生最悪の日」
無意識に近所の公園に向かっていたらしい。気が付くと俺はベンチに座り泣き暮れていた。
外は雨だったらしい。今更身体の冷えに気づいたが、動く気力がない。
そのまま泣きつかれてうたた寝をした。こんな日でもあの子の夢を見るらしい。
「サイオン様、違うのです!全てはあの女が悪いのですわ!」
「黙れ。貴様に名前を呼ぶことも許可していない上にリリーの事をあの女呼ばわりするとは。王族不敬罪の罪も背負いたいらしいな。人を殺そうとする其方らしい下劣な振る舞いだ。見るに堪えん。」
前回の夢では確かリリーに殺し屋をけしかけようと画策していたか。
確か怪しい黒フードの男に声を掛けられ言われるがまま準備を進めていた気がするが。
まんまと誰かに嵌められたのか。
さっと周りを見渡す。なんのパーティか知らないが、国王含めこの国の主要な貴族全て集まっているらしい。今まで見たパーティより年齢層が高く、壇上には国王であろう人物が見定めるかのように黙ってこちらを見つめていた。
サイオン王子の方を見ると、いつかのようにリリー男爵令嬢を方に抱き寄せ、侮蔑の表情をローズに向けている。その寵愛が誰に向いているかは明らかだった。
(おかしいな、今まで隠したい様子だったのに。)
「婚約破棄と合わせて国外追放を命じる。二度とこの国に足を踏み入れるな。同じ空気も吸いたくない。」
「そんな。サイ、殿下・・・」
泣き崩れるローズを見ても誰も手を差し伸べない。非常にも断罪のシーンは続いていく。その光景に微かな違和感を感じたが、特定できず目線を彷徨わせる。
あと少しで分かりそうという所で、ローズが騎士に拘束され会場から摘まみだされた。
馬車に乗せられ邸宅に付くと、様子のおかしいローズに戸惑いつつ侍女達が介抱した。
メイクとドレスを脱がされ、軽く湯浴みをしてもらい夜着に着せ替えられベッドに運ばれる。
その間中ローズはずっと泣き続けていた。
(そうか。お前も人生の絶望を味わうなんて、本当に運命を感じるよ。
でもな、お前の方が俺の人生よりマシだろ。自業自得だし元々望みもなかったじゃないか。)
人間、絶望を味わうと悲劇に浸りたくなるのか。
痛みの差を比べたって意味がないのに、この世で一番不幸なのは自分なんだと愚かな事を考える。
『本当にそうかしら。じゃあ、試してみたら?』
「へ?」
目が覚めるとあの夢の悪役令嬢になっていた。