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0話「人生最悪の日」

「今日も見たよ、あの夢。あの子、遂にヒロインに殺し屋差し向けるみたいだ。」


一緒にいるのが当たり前の親友に声をかける。いや、当たり前になるまで俺が離れなかっただけか。

隆二にとっては中学、高校、大学、そして社会人になるまでこうして会うのは、ただの腐れ縁だと思っているに違いない。

大学からの行きつけの飲み屋で、アメリカ出張から3か月ぶりに帰ってきた隆二を酒を酌み交わす。

アメリカに行ってまた雰囲気が男らしくなった気がする。

向こうで染めたのか、アッシュブルーの頭髪が彼の切れ長の目とマッチしていて、更にかっこよくなっていた。

身に着けているモノも品が良く、オーダーメイドであろう3ピースのスーツが嫌味なくらい似合っている。


「あの夢か。確か中学の時からずっと言ってるよな?大人になるまで見るなんて、その子と何か縁があるんじゃないか?

俺は落ちる夢ぐらいしか定期的に見ないな」


煙草を灰皿に押し付けながら、右の口角を上げておちゃらける。

その仕草と表情が最高に好きで、少し見入ってしまった。会話のテンポも悪くなるし悪い癖だと思うのだが、不思議と嫌な空気にもならない。そんな所も大好きだ。


妻にも言っていない、昔からの二人だけの話題というだけでなんだか嬉しくて、会うたびにこの話をしていた。最近その話題にも反応が薄くなってきたことに気づかないふりをし、毎回付き合ってくれる隆二に甘える。それだけでいい。一生想いは伝えずに親友として生きていくのだ。


「そういえば、今日かおりちゃんとちび助いるか?アメリカ出張の土産があるんだ。久しぶりに顔見たいし、今日お前ん家寄っていいか?週末なんだし、2次会で飲み直すぞ」


もう二人の時間が無くなることに寂しさを覚えつつ、隆二からの提案に嬉しくなる。

親友の妻子も大事にしてくれるなんて、なんて出来た男なのか。

跡継ぎの為とはいえ、好きでもない女性とお見合い結婚し子供をもうけたくせに、まだ親友に恋心を抱いている俺とは大違いだ。

勿論、家族として愛していない訳ではないが、根本がゲイなのか、どうしても性的に彼女を愛せず、親友への想いを断ち切れない自分に罪悪感を感じ続けている。

とはいえ5歳になる息子は愛おしく、こんな私と結婚してくれた彼女の事はとても大切だ。この気持ちも決して嘘ではない。


「ありがとう。香織も隆もお前に会えてきっと喜ぶよ。

ただ、香織に確認してからでいいか?準備してもらうのは香織だから、俺だけでは許可できないんだ。」


家政婦がいるとはいえ、急な外来に対応するのがいかに大変かは理解しているつもりだ。

家の事をお願いしている以上、俺が勝手に決めるわけにはいかない。


「勿論だ。お前のそういう気遣いができるところを見習わないと、俺も嫁さん貰えないな。」


隆二は、はははと爽やかに笑いビールを煽る。

たくし上げた腕の筋肉と筋、嚥下する喉仏を見ながら香織に電話をかけた。


「香織が是非ってさ。汚いお家だけどごめんなさいねって」

「かおりちゃんらしいな。そう言って汚かった事1度もないくせに。あ~、俺もかおりちゃん見たいな嫁さんほしいぜ」

「ははは・・・」


やけに喉が渇く。得意じゃないビールを無理やりあおった。

俺は上手く笑えてたんだろうか。

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