0話「人生最悪の日」
小さいころから定期的に見る夢があった。
中世ヨーロッパを意識した乙女ゲームのようで、悪役令嬢の我儘な女の子が婚約者の王子様に恋をし必死に気に入られようとアピールするも、王子は下級貴族の女の子に恋をしてしまう。
男の俺でも聞いたことがあるような典型的な話。
ただ、悪役令嬢の目線で彼女の人生を追いかけるうち、いつしか彼女の事を応援していた。
自分で作り出した夢のはずだが、不思議と違和感もなくその夢をアニメを見ている気分で楽しんでいた。
今日は、その悪役令嬢ローズが15歳の誕生日を迎え、魔法学園の特別フロアで誕生パーティを開いていた。
本当はイチ生徒の誕生パーティなど行えるはずがないのだが、公爵家の力を王子を狙うものに見せつける為だけに開いたものだ。
というのも建前で、学園のパーティであれば王子様が来てくれるのではと期待しているだけみたいだが。
様々な貴族の子息・令嬢たちからお祝いと称賛の言葉をもらい、ご満悦になるも視界の端ではずっと彼の姿を探している。
彼女は女性なのに何故こんなにも自信がないんだ。
本人には恥ずかしくて思いを伝えられず、ただただ周りを牽制ばかりしているお陰でキツい女になっている。
女の武器を使って愛嬌でも振りまけば男なんてほっとかないだろうに、公爵家というプライドが邪魔をしてそれもできない不器用な女だ。
暫くすると華美な照明とキツいコルセットのせいでじんわりと汗ばんできたらしい。
(汗をかいている姿なんか見られたら一生の恥よ)
と、そそくさとテラスへと移動する。
季節はまだ夏だが、夜風は気持ちよさそうで汗が引いていくことに安堵していると、春の庭のほうに人影を見つけた。
王子と男爵令嬢のリリーだ。
王子が自分の外套を令嬢の肩にかけながらさりげなく抱き寄せ、耳元で何かを言っている。
リリーは真っ赤になりながらもまんざらでもない様子。
(はぁ、またか。最近お決まりのパターンだな。ローズは・・・見るまでもなく嫉妬による怒りで頭が真っ白だ。)
「せっかく女性に生まれたのにそんな醜い顔すんなよ。他を見ればお前の事を受け入れてくれる奴なんかごまんといるだろ?」
夢の中の人物に聞こえるはずもないのに話しかける。
いや、これは自分にかけるべき言葉かもしれないな。
自嘲気味に笑ったところで意識が浮上した。