森林の剣 歴史探訪の会 8
「永山さん!」
斎藤さんが、ひざまずいて声をかけた。
「永山さん!」
べっこう製のメガネをかけた白石さんが、斎藤さんよりさらに大きな声で呼びかける。
「息は、しておるのか?」
偽庵がいうと、白石さんが永山さんの口の前に手をかざした。
「息はしてるわ」
「脈も、ありますよ!」
斎藤さんも、早口で叫ぶ。少し安心したのか、声が明るくなっている。
永山さんのまぶたがピクリと動き、ゆっくりと開いた。
ぼんやりとした表情。眼の焦点がさだまっていない。
「何か、飲みますか?」
永山さんは、うなずくと、手渡されたペットボトルから、お茶をごくりと飲んだ。
しばらく放心状態だったが、みまわして塚本をみつけると、
「――先生にもバレちゃいましたね」
塚本さんが、首を振りながら、
「いや、少し疑ってはいたんだ。もっと、君に詳しく訊くべきだった」
永山さんは、立ち上がった。無意識だろうか、腰をパンパンと叩いた。
「――あのう」
武が声をかけようとすると、
「もう、わかったでしょ! あなた方のいってた3人目の〝こだま憑き〟は、わたくし! 藤原さんの実験に協力してたのも、わたし!」
「噂で聞いていた恰好とは、違っておったんじゃが?」
守口さんが、すごい謎だとでもいいたげに訊く。
「橋に立つときは、以前、探訪の会で行った『歴史・考古学なんでもマーケット』で買った古墳時代の模造よろいを着ていったわ。――ちょっとしたおしゃれのつもり」
武の方を向き、震える声で説明を始めた。
「藤原さんの家が、古い家柄で没落した華族の血筋だということは、調べて知ってたの。――だから、会員のなかで、一番〝こだま〟を呼びやすいんじゃないかって……。だから、自分から近よって親しくなったの。藤原さんのやってる事を観察しているうちに、自分でもできそうな気がしてきて、いろいろ試してみるようになったの。……だから、あの日、また試したいからそばで観察してほしいと連絡が来たとき、用事があるからと断って行かなかったの。もう少しで成功しそうだったから、余裕がなくなってたの。――普段は、かくしゃくとしたご老人で、健康そのものにみえたから、まさか、あんな事になるなんて、少しも思わなかった」
それでも、ひとりでは実験をやらないよう忠告すべきだったのではと、武は思ったが、いまさらいっても、しかたがなかった。
元気な老人だったというのは、本当なのだろう。藤原さんの話では、叱られる時、首根っこを押さえつけられると、動けなかったそうだし、実際、ひとに心配されたくない、意固地な老人だったのかもしれない。
「……はて、はて、困りましたな」
斎藤さんが、頭をかかえている。
「噂が自然に消えていくのを、待つしかないんじゃ?」
いつのまにか、偽庵からもとの姿に戻っていた茂が、声をあげた。
「わたしも、それしかないと思います」
白石さんも、しっかりした声を発した。




