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こだま憑き  作者: ブルージャム
第四部 平成編
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森林の剣  歴史探訪の会 7

 武は、慎重に言葉を選んで問いかけた。

「橋の上で、渡ろうとする者に勝負を挑んでいたのは、あなたで間違いないか?」

「そうじゃ。王の敵になりうる者を、探して懲らしめておる!」


 どうやら、吹負ふけいは、いまだに壬申の乱の相手側――大友皇子側の残党と戦っているつもりらしい。ここが、吹負のいた時代より後の時代であることは理解しているようだが、天皇家が続いている、つまり天武天皇の系譜が、現代まで続いていると、本気で思っているのだ。

 天武天皇の血筋は、数代で絶え、天智天皇の血筋に戻ったことは、知られてはならない。

 怒って暴れだすかもしれない。


 橋を渡って歩いてくる者たちが、王の敵だと、なぜ思い込んだのだろう? 吹負の憑いている永山さんが、勘違いさせるようなことを吹き込んだのだろうか? 


「橋を渡る者たちが、お主の主君である大海人皇子様の敵だと、なぜわかるのじゃ?」

 偽庵が、いぶかし気に訊く。

「――この者が、今の世には、王にたてつく者が大勢いると、教えてくれたのだ。魂のみで、肉体を持たぬ身じゃが、王を思う心は変わらぬ。いや、すでに肉体のない身であるからこそ、王への手助けがしたいのじゃ」


「橋を渡る者すべてが、大海人皇子様の敵とはかぎらぬぞ。手あたり次第に切っておるのか? ――お主は、狂っておる!」

「すべての者を切っておるのではない。この者が、王の敵と教えている者だけ、橋で待ち伏せして、切っておるのだ」


 武は、斎藤さんをみた。

「いやいや。永山さんがそのような事をしているなど、知らなかったですよ」

「そういえば、永山君は、額田王にあこがれていたな」

 塚本と名のっていた背の高い白髪の男性が、声をあげた。鼻梁が高く、目が青みがかっていて、ハーフかクウォーターかもしれない。


「そうなんですか? ――ああ、塚本さんは、元大学の先生で、永山さんの恩師だそうです」

 斎藤さんは、塚本さんの、永山さんへの"君づけ"をいぶかしんでいる武たちに、説明してくれた。


「額田王は、大海人皇子、中大兄皇子との三角関係で知られていますね」

 塚本さんが続けた。

「吹負が取り憑いたのは、そのせいかもしれない」

 武は訊き返した。

「呼び出す人間の素養に関係があると?」

「ええ」


 武は、首をふってそれは違うという意思を示したが、無視されてしまった。武は、宮本武蔵のことなど、ろくに知らなかったのに取り憑かれたのだ。歴史上の人物に関する素養は無関係だと思っている。

 

 武が密かに考えていたのは、その人物の、かなり離れてはいるけれども、遺伝=血筋によるものではないかということだった。

 もちろん、こだまとしてたましいが残ってゆくような過去の偉人の血筋かどうか知ることは不可能だ。遺骨が残っていれば別だけれど、古墳時代の政治に携わっていない人物の墓など、どこにあるかわからない。わかっても、骨が残っている可能性は低い。


「この者は、今の世が、儂のいた時代より人の品性が下がっておるといっておった。特に、年の若い者らは、王を敬っていないとな。……橋を渡る者たちと問答してみたが、我が王どころか今の王のことでさえ知らぬ者たちばかり……。儂は怒りがおさまらぬ。王を敬わぬ者たちに、懲らしめのため、勝負を挑んだだけじゃ。――今のところ、儂に勝てた者はひとりもおらぬがな」

 吹負は豪快に笑い、天をみあげた。


 と、吹負の身体が前に倒れた。

 ――あっ。

 倒れながら、吹負の巨体がシュッと縮んだ。

 武たちが駆け寄ったときには、枯れ枝のように細い小柄な女性が、そこに横たわっていた。  

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