森林の剣 歴史探訪の会 6
「お主も、わしと同じか? 今の世のヒトに捕らわれておるのか?」
「わしは、捕らわれておるとは思っておらぬ」
「では、なんじゃ? お主みずから、その者に取りついておるのか?」
吹負は、怒鳴った。
今の自分の状況を、いまだ受け入れてはいないようだった。
「わしにも、まだわからんが、気がつくと、この者のなかにいたのじゃ」
偽庵は、静かに答え、ふたたび霊刀をかまえた。
「――待ってくれ!」
武は、必死で偽庵と吹負のあいだに割り込んだ。
吹負は、偽庵の動作をみて、眼玉を、またぐるりと動かし、肩から上に剣をふりあげた
「――どかぬか! 後の世の者とて、容赦はせぬぞ!」
「待ってくれ! 戦う理由がないだろ!?」
「わしの憑いている、この者は、おぬしらを嫌っておる。――それだけで、充分な理由であろう」
「待て、待て。永山さんは、歴史好きの、優しい女性だ。殺し合いなど、したいはずがない!」
斎藤さんが、震える手を握り締め、よろよろと武の隣に出てきた。
吹負は首を突き出し、眼をぎろりと光らせ、武たち三人を、にらみつけたが、それでも、振りあげた剣を脇におろした。
「おおとものふけい、と名のられたな。わしは、室町殿の治める世に生きた者で、たまたま剣を覚えた眼医者じゃ。――お主の世では、誰がこの国、にっぽんを治めておったのじゃ?」
偽庵は、低いがよく響く声で問いかけた。
吹負は、吠えるような声を出した。
「にっぽんとは、なんじゃ? そのような土地は知らぬ。わが王は、大海人皇子さまよ! わが王は、王となられてから、世を良くするために、戦ってこられた。われは、王のために、わが剣をふるうのみ!」
「ああっ! 大伴吹負! 思い出しましたぞ! 壬申の乱の英雄じゃ!」
「わしの名を知っておる者がいたのか? あの大乱を覚えておるのか?」
「壬申の乱? 大海人皇子と大友皇子が争った?」
斎藤さんが震えるこぶしを握り締め、ごくりとつばを飲み、声をあげた守口さんに尋ねた。
「そうじゃ。勝った大海人皇子が、天武天皇となられた、あの戦いじゃ!」
「吹負殿は、大海人皇子側で戦った方なのか?」
「そうじゃ。乱の初期の戦いで、一度は負けたのじゃが、兵を集めて再起し、最後は、大友皇子の軍を押し返したのじゃ。壬申の乱一番の英雄じゃ!」
「わが王は、王の位につかれてから、休む間もなく働いておられた。やはり、後の世まで、名前が残っておったのじゃな……」
吹負は、感無量といった体で、つぶやくと、剣を鞘におさめた。




