森林の剣 郷土史家
「ご先祖が残した記録が、ある?」
「ああ、会のメンバーのなかには、奈良、平安時代からの系図が残っている家も、あってな……」
斎藤は、自慢げに、胸をはった。いかり肩をさらに、上にあげ、身体を大きくみせている。
「わしの家にも、平安末期からの、系図が残っておる」
「古文書のようなものが、あるんですか?」
「さよう……分厚い和紙をたばねた文書記録が残っておる。そのなかに、〝こだま憑き〟という、霊魂にとりつかれた人間、あるいは、自分から霊魂をとりつかせた人間のことが、でてくるのじゃ」
「そのような古文書は、いくつもあるんですか?」
「そうだな。30人近い会員のなかで……儂が聞いているだけでも、6人の者の家に、そうした文書が残っている。……じゃが、古文書を持ちながら、隠している者もいると、儂はにらんでおる」
古文書のなかに、藤原さんが行ったような〝こだま〟を呼び出す儀式の書かれたものがあるかもしれない。
「どうにかして、その文書を、みせてもらえませんか?」
「儂の一存では、なんとも……。今度の定期会合で、話し合ってみないことにはな」
ためらう斎藤をみて、茂が口をはさんだ。
「あのう……その会合に参加させてもらうわけには、いけませんか?」
斎藤は、眼を見開いた。
腕組みをして、何回か、首を振った。
「儂は、かまわないんじゃが。会のなかには、気難しいやつもいての。会合に、一切部外者を入れるな、といい張るやつもいるのじゃ」
結局、最後まで斎藤さんを説得することができなかった。
会への参加は許してもらえなかったが、〝こだま憑き〟に関しては、それとなく訊いてみるという約束はしてくれた。
〝こだま憑き〟のことを信じてくれただけでも、良しとしよう。武の故郷の街でも、実際に〝こだま憑き〟をみた者しか、信じてくれなかった。その時、経験を共にした幼なじみとは、今でも、その頃のことが話題にのぼり、ふたりで悔しがっている。
斎藤家を出て、10分ほど経った頃だろうか、前を歩いていた茂が、ふいに立ち止まり、武は、茂の背中に衝突した。武のほうが背が高いので、茂が転びそうになった。
「おい、あぶない!」
武は大声を上げ、転びかけた茂の上腕をつかんだ。
「――あれを」
茂が、前方にたたずむ人影を指さした。
ちょうど住宅地のはずれ、あと少しで広い舗装道路に出るところだった。道の両側に、建築中のまま放置されている家屋があって、右の家屋から細い下りの坂道が、武たちの通っている道まで届いている。その、角材が埋め込まれ段になっている道の途中、五段目あたりに、2m近い身長の男が立っていた。




