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こだま憑き  作者: ブルージャム
第四部 平成編
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森林の剣  激闘 その四

 茂は、これまでみたことのない、年経(としへ)たおだやかな顔で、口を開いた。

「こだま憑きとは、なんじゃ?」

 武は、高校生の頃に経験した事件と、そのときに知り合った道場主から教わった〝こだま憑き〟について、早口で説明した。


「知らぬな。わしは、眼医者じゃ。百年も二百年も滅びぬ魂などではないな」

 茂の年寄りのような話し方に、武は、やはり〝こだま憑き〟なのだと思い、続けた。

「あなたの名前は? 名を教えてください」

「……友松偽庵と申す。――少々剣を使う、旅の眼医者じゃ」

 聞いたことのない名前だった。もっとも、武は、剣豪などについて、それほど詳しくはない。宮本武蔵に憑かれたとき、少し調べたぐらいだった。


「剣の流派は、何ですか?」

「わしの師は、小笠原殿だ。――念阿弥殿の系譜の剣じゃ。世間では、念流とか、いわれておるかの」

 念流といわれても、知識に乏しい武には、何のイメージも浮かばなかった。

 さらに問いかけようとしたとき、急に偽庵――茂の眼が閉じた。同時に、茂の身体が、ぐらぐらと前後にゆれた。


「おい! 大丈夫か?」

 武は、あせって大声をだした。

 茂の眼が開いた。ぼんやりとした顔。声をかけた武ではなく、武のよこの何もない空間をみつめている。

「おい!」

 茂の眼が、またたいた。

 やっと声に気づいたようで、ゆっくりと首をまわし、武の方を向いた。

「やあ。……気分はどう?」

 ぼそっと話す。

 武が黙っていると、顔をくもらせた。

「切られたところが痛む? 落ち武者は去ったのかな?」

 どうやら、茂に戻ったらしい。偽庵と名のる男は、茂という存在の内側に隠れてしまった。


「……友松偽庵……」

 あいつの名を、つぶやいた。

「うん? 誰のこと?」

「覚えていないのか?」

「……うん? 何を?」

 武が、憑かれたときと同じだった。

 自分が憑かれたときのことを、覚えていないらしい。


「おおい、……大丈夫か?」

 倒れていたはずの岩瀬が、起き上がってきた。

 柳原や、ナギナタ女子たちは、意識は取り戻しているようだが、全身の力が抜けてしまっているのだろう。まだ、倒れたままだった。

 岩瀬は、やはり精神が強い、というより魂がタフなのだ。超自然現象を追っかけているうちに、鍛えられたのかもしれない。

 俺たちは大丈夫だと答えると、岩瀬は、ナギナタ女子のもとに、まだフラフラしながら近より、声をかけ、ふたりが起き上がるのに手を貸していた。


 武も、柳原のそばまで行き、声をかけた。

 柳原は、ごろんと転がってあお向けになり、このままじっと休んでいれば大丈夫といい、青白かった顔色も、もとに戻っていた。

 茂以外の全員がよろい武者に切られたが、ひどい脱力感を覚えただけで、小さなすり傷以外は怪我もなく、全員が無事だったことに、岩瀬は、心底ホッとしたようだった。

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