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こだま憑き  作者: ブルージャム
第四部 平成編
43/73

森林の剣  旅立ち

 新幹線がホームに入ってきた。

 ペンタグラムから火花が出て、パチパチ音をさせている。

 宮田武は、乗る前から、菓子パンを、むしゃむしゃ食べていた。

 待ち時間の手持無沙汰に耐えられず、腹もへってないのに、買い食いしてしまう。


 この春、無事に大学に合格し、大学の四年間を過ごすアパートも決まり、今から出発するのだ。母親が改札のところまでは、見送りに来てくれたが、そこで追い返した。中学生ではない。いつまでも、親に甘えてはいられない。

 武は、全世界に向かって気負っていた。気負うという事が、まだまだ若いしるしなのだとは、気づいてもいなかった。


 幸い、新幹線の自由席は、すいていた。一両に数人しか座っていない。

 まあ、平日で、観光シーズンは5月の連休まで間があるから、あたりまえか……。


 シート列の真ん中あたりの席に座ると、持っていたボストンバッグを席の上の荷棚にあげた。

 もちろん、菓子類は取り出してある。駅の構内のファーストフード店で買ったドーナツをほうばる。甘い匂いがぷ~んと漂い、後ろの席の客の男性が、顔をしかめた。

 ケーキなどの甘い匂いは、好きな人間からしたら、良い匂いだが、さほど好きではない人間からしたら、嗅いだだけで、胸やけしたような気分になる。

 武は、周囲の人間に不快な思いをさせているのにまったく気づかず、むしゃむしゃドーナツを数個食べると、眼をつむった。

 菓子類のはいった小さな袋を大切そうに抱えたまま、寝息をたてはじめた。


 その頃になると、後ろの席の男性も、同じように眠りに入っていた。

 武と同じくらいの年齢だろうか? 

 しわだらけの古いダウンコートを身体にかけている。日に焼けた顔は、悪い夢を見ているのか、額にしわをよせ、しかめ面になっていた。


 東京を過ぎて、ぎりぎり関東地方に入る県の、2番目におおきな街の駅で、武は降りた。

 武は気づいていなかったが、後ろの席の男性も、同じ駅で降りた。


 武は、バッグから取り出した地図をみながら、のんびりと歩いた。大学へ行くために借りたアパートは、駅から徒歩で10分以内にあるはずだった。少し前に、父親が仕事で東京へ出るついでに、この街を訪れ、安いアパートを借りてくれた。


 徒歩10分ときいていたのに、20分近くかかって、ようやくアパートについた。錆びついた階段を上ると、武の部屋の前に、もう不動産業者が来ていた。

 まるまると太った恰幅の良い男で、意外に甲高い声で、荷物は午後に届くということと、電気は使えるが、水道は、明日の午後からになる、水洗トイレは使用しないようにと言われた。


 ええっと驚いて、じゃあ、トイレはどうすれば、と訊くと、近くに公園があるので、そこの公衆便所を使ったらよいと言われた。コンビニも近いから、そこでトイレを借りてもよい、一晩だけのことなので……と完全になめられている感じだった。


 今日、ここに着くと、ひと月以上も前から連絡しておいたのに……。

 武の不満げな顔を見ると、業者の男は、駅前に安いホテルもありますし、引っ越して来られる方は、前日に来て、たいていそこで一泊されますよという。

 まるで、お前もそうだろうと、言わんばかりだ。

 学生の身で、ホテルに泊まるようなぜいたくが、できるわけがない。


 男が鍵を渡し帰ってからも不満がおさまらず、入った部屋の、何も置いてない畳の上で、柔道の受け身を何回かやって、やっと落ち着いた。


 荷物は、午後というより、陽も沈みかけた夕方に着いた。

 いろいろ買い揃えたいものがあったのに、部屋で荷物が来るのを待たなければならなかった。

 新生活の初日から、予定通りにことが運ばない。

 荷物から、布団のみ取り出し、教えられた公園とコンビニ、その同じ通りにあったスーパーをまわった。

 結局、トイレは、スーパーのトイレを借りた。

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